アルバイトの病欠に罰金

セブン−イレブンの加盟店で、アルバイトが病欠にあたって「代わりに働く人を見つけられなかった」ことへの制裁として当該欠勤時間分の賃金と同額の罰金を徴収していたことが発覚したのですが、昨日の毎日新聞でこう報じられているのを見て仰天しました。

 コンビニエンスストア最大手、セブン−イレブンの東京都武蔵野市内の加盟店が、風邪で欠勤したアルバイトの女子高校生(16)から9350円の「罰金」を取っていたことが分かった。セブン−イレブン・ジャパンは「労働基準法違反に当たる」として、加盟店に返金を指導した。
 親会社セブン&アイ・ホールディングスの広報センターなどによると、女子生徒は1月後半に風邪のため2日間(計10時間)欠勤した。26日にアルバイト代を受け取った際、給与明細には25時間分の2万3375円が記載されていたが、15時間分の現金しか入っていなかった。手書きで「ペナルティ」「9350円」と書かれた付箋が、明細に貼られていた。
 店側は「休む代わりに働く人を探さなかったペナルティー」として、休んだ10時間分の9350円を差し引いたと保護者に説明したという。
 広報センターの担当者は毎日新聞の取材に「加盟店の法令に対する認識不足で申し訳ない」と話した。「労働者に対して減給の制裁を定める場合、減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が賃金総額の10分の1を超えてはならない」と定めた労基法91条(制裁規定の制限)に違反すると判断したという。
 厚生労働省労働基準局の担当者は「代わりの人間を見つけるのは加盟店オーナーの仕事」と話す。母親は「高校生にとっては大金。立場の弱いアルバイトが差し引かれ、せつない」と語った。【早川健人】
(平成29年1月31日付毎日新聞朝刊から)
http://mainichi.jp/articles/20170131/ddm/041/020/112000c

何に驚いたかというと労基法91条違反と判断したので返金を指導したというところで(いや事例の悪質さにも驚きましたが)、91条違反ということは金額が大きすぎるということであって懲戒自体は正当というつもりなのかということに驚いたわけです。
ただまあこれはさすがにそうではないようで、日刊スポーツのウェブニュース(配信は共同)によれば、

…(セブン−イレブン)ホールディングスの広報センターによると、店では、休む際に代わりの人を探さないとペナルティーを科すというルールを設け、アルバイトに伝えていた。担当者は「代わりを探すのは雇用主の責任。労働基準法で定めた減給制裁の上限も超えている」としている。
 女子高生は既にアルバイトを辞めているが、店側は差引額の全額を返済するという。
http://www.nikkansports.com/general/news/1772505.html

ということで、基準局だけではなくセブン−イレブン(の広報)も「代わりを探すのは雇用主の責任」と言ったとのことで、全額を返済するとも書いてありますので、罰金処分は取り消されているしそれを正当と主張するつもりもないということがわかります。毎日のように「91条違反」で「返金を指導」だと、91条違反部分のみを返金したようにも読めますよね。毎日の記者さんは署名で書いていることでもあり、もう少しきちんと書いてほしいなあ。さすがにこれはセブン−イレブンに失礼だろうと思います。
ただまあこれはセブン―イレブンの広報にも問題はあり、91条違反を持ち出すまでもなく労働契約法15条に抵触して無効だから全額返金を指導したと言っておけばいい話ではあります。周知のとおり労働契約法15条は懲戒に客観的合理的な理由と社会通念上の相当性を求めているわけですが、「ペナルティーを科すというルールを設け、アルバイトに伝えていた」という話だと就業規則に本件懲戒の明文の根拠規定があったとは考えにくく、まあ病欠の際にはアルバイトが代替要員を確保するという内規への違反をもって一般条項を適用するというのも「合理的な理由」とはいえないでしょう。相当性についてもまさに「代わりを探すのは雇用主の責任」というのが社会通念であるわけですからおよそ社会通念上相当とは言えそうにありません。したがってこの罰金は労契法15条により懲戒権の濫用であって無効なので撤回返金させますという話のほうがよほどまともではないかと思うわけです。

  • さらに言えば、今回のケースでは「休むときに代替要員を見つけないこと」に対して「当該欠勤時間分の賃金」の罰金という計算式が定められているので、労基法16条の損害賠償の予定の禁止にも抵触する可能性が高いように思われます。労契法と違ってこちらは刑事罰付の強行法規なのでカネを返せば済むという話ではありません。チェックオフ協定がなければ24条(これも強行法規)違反の問題も発生しそうです。

とはいえ、記事に対する不満はまだあり、(全額)返金するという話だけが報じられているわけですがこの人にカネを返せばそれで済む話ではないでしょう。これまでも、他のアルバイトなどにも同様に罰金を支払わせてきたのでしょうから、それらをすべて洗い出して全額返金するのが筋のはずです。まあ加盟店としてはどうせ証拠も残ってないだろうからアルバイトが言い出さなければ頬かむりを決め込むという算段なのかもしれませんが、そこをきちんとやらせるべく追及するのがジャーナリストの仕事だと思うのですが違うのでしょうか。

  • ところで、いつまで遡って返済すべきかについては、労契法15条違反なら賃金債権ということで労基法115条の短期消滅時効(2年)にかかるのだと思うのですが、労基法16条違反の場合は損害賠償金ということで不法行為の時効3年が適用されるのでしょうか?詳しい方、ご教示願えれば幸甚です。

また、再発防止についても気になるところで、もちろんフランチャイズ店のオーナーは一国一城の主であり経営者であるわけなので第一義的にはその責任において再発防止がはかられるべきですが、しかし本部としても類似の実態が他のフランチャイズ店で行われていないかどうかを調査し、行われていれば正常化を指導するというのが道義的に望ましいのではないかとも思います。このあたりも、今回のケースをどこまで重大に受け止め、本部としてどこまで再発防止をやる気があるのかといったことに突っ込むのも報道機関の役割ではないかと思うのですが…まあ期待しすぎかなあ。もちろん、そのあたりしっかり突っ込んだけれど紙幅の関係で報じきれませんでしたという話なのかもしれません。