日本労働研究雑誌11月号

(独)労働政策研究・研修機構様から、日本労働研究雑誌11月号(通巻676号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/11/index.html
今回の特集は「兼業・副業」という時宜を得たものでどれも面白いのですが、それ以上に面白いのが「労働政策の展望」コーナーに寄せられた稲上毅先生の「同一労働同一賃金論に寄せて」という論文です。わが国では正社員についてはすでに内部労働市場において労使協議・職能資格制度のもと「歴とした同一価値労働同一賃金の制度が成立」しており、非正社員については市場価格で賃金が決まっているという実態を前提に、企業内で正規−非正規間の同一労働同一賃金を実行しようとすると非正規の賃金もレンジレート化せざるを得なくなり、労働市場での価格と乖離が生じるという深刻な不具合が発生すること、それを回避するための「安易で狡猾な方法」として正規と非正規の仕事の截然とした棲み分けが起こると指摘し、「同一労働同一賃金というアプローチは−現実にたいする一種の自己覚醒効果は大きいようにみえるが−打出の小槌でないばかりか、あまり有効な方法でないようにみえる」と指摘されます。その上で、短時間勤務・短期勤続の非正規と、長期勤続で能力向上・昇給・賞与のある準社員的な非正規の2種の非正規を有し、狭き門ながらも前者→後者→正社員と転換していく百貨店の例をあげられ、「キャリアと処遇システムが内部化している」準社員的な非正規のボリュームを大きくしていくことを課題としてあげられています。そして「大切なのは、非正社員にかんする正社員との均等あるいは均衡処遇システムの確立であるように思われる」と結論づけられています。「均等あるいは均衡処遇システム」の詳細が不明ではありますが、前提部分の認識や同一労働同一賃金の効果については過去このブログで書いてきた内容をサポートいただけるものであり、非常に心強く感じます。
ちなみに今号では例年のディアローグ「労働判例この1年の争点」も掲載されており、3年連続(だと思う)で鎌田耕一先生と野川忍先生が登場しておられます。例の長澤運輸事件も「ホットイシュー」として取り上げられていますが、両先生とも判決の理論的問題点を詳細に検討された上で、さらに加えて「高齢法に基づいて頑張っている企業に対して、インパクトが大きい」「そうです」と、適用面での問題も指摘されています。これまた、過去このブログで表明した懸念を支持していただけるものであり、やはり心強く思いました。
兼業の各論文にも興味深い内容が多いので、追い追い紹介できればと思っております。