Brexitとキャリアデザイン

金曜日にキャリアデザイン学会の研究会でゲンダ先生にこのお題で一本書けと言われたので書こうと思います。そういう次第でまったくの雑文になりますのでそのようにお願いします(他のエントリもそうだろうと言われれば否定はしませんがいつも以上にということで)、ということで日記タグにした。
さて離脱という結果が出たということでその背景などがあれこれ報じられているわけですが、移民の増加による失業や公的サービスの機能低下と並んで大きな要因とされているのがEUの規制です。たとえばこんなものがあるとか。

  • ゴム風船を子どもだけで膨らませてよい最低年齢は8歳
  • 吸引力の強すぎる掃除機の規制
  • ミネラルウオーターのボトルには「脱水症状を防ぎます」と書いてはならない
  • 鰹節は製造過程で発がん性物質ができる可能性があるため輸入禁止

ということで掃除機の規制が導入された際には駆け込み需要が発生したとかミラノ万博の日本館が鰹節の規制でしびれたとかいう話もあったわけですが、これはもちろんEU域内民を保護するために導入された規制であるわけですね。真偽のほどは明らかではありませんがスーパーで売るきゅうりの曲り具合とかバナナ1房の本数とかいうものまで規制があるとか。
もちろんこうした規制の善悪は簡単には決められませんが、報道などをみると英国人にとってはこうした規制を強要されることがかなり耐え難いことだったということのようです。いっぽうでEUの主要メンバーであるフランスやドイツなどでは弱者?を守るために政府が規制し保護するというのが普通の発想だということなのでしょう。
でまあこういうことを書くとまた激しく怒られるのだろうなとは思うのですが週48時間とか勤務間インターバル11時間とかいう規制もこういう人たちが決めたものだという見方もできるわけですね。これはこれでこうした規制で守られるべき人たちがいるのだということであって別に悪いわけでもなんでもありません。
ただこの規制で守られる人というのがどういう人かというと、繰り返し書いているようにジョブ型の雇用で、基本的には初職から変わることなく(勤務先は変わるとしても)、賃金もわずかな昇給があるだけで、上位クラスの仕事・待遇に上がることはまず考えられないというキャリアの人たちなのですね。長時間働いて成果を上げたり能力を高めたりしたところで昇進の可能性があるわけでもなし、だったら週48時間を超えて働くなんて嫌だ、一度仕事が終わったら11時間は働きたくない、働きすぎて健康を壊すなんてたまらん…という人たちであり、また為政者としても労働者がそのように「ほどほどに働いてワークライフバランス」で大きな不満も持たずに生きてくれる存在であることが好都合だということなのでしょう(何度でも書くがそれが悪いというつもりはない)。
これを英国人がどう思っているかは知らないのですが(英国も事情はそれほど違わず、したがって低賃金の移民に職を奪われることが恐怖なのだという声があるわけですが)、さて日本人の考えるキャリアデザインがそういうものかというと実態も含めて全く異なるわけですし、国民の太宗が大陸欧州で保護されている労働者のようなキャリアがいいと思っているかというと、まあそんなことはなかろうとも思う。
もちろん労働者の健康や労使間の力関係にかんがみて必要な人に必要な規制を適切に行っていくことは必要不可欠ですし、ブラック企業みたいなものはなくしていかなければならないわけですし、労働時間短縮はじめ労働条件の改善には労使で着実に取り組むことが望まれるわけですが、そこでEU出羽出羽とEUがきわめて素晴らしいように語ることのヤバさというのが今回のbrexitの教訓かなあと、まあそんなことを考えたわけです。
(6月28日追記)トラックバックにあるように案の定怒られたわけですが、これが主因ではないだろうというご指摘には同意です。なお一部で誤解を受けているようですが自由主義者でありビジネスマンでもある私は当然ながら今回の結果はたいへん残念なものであると思っていますので為念。いや実際かなりの実害も被っているしな(泣)