「「感情労働」フォロー」フォロー

あまり引っ張るのもなんですが、「感情労働」のエントリで育児支援について書いたところ貴様はどうすればいいと思っているんだとのご質問をいただき、やや誤解を招いている感もありましたのでもう一回フォローします。ということで内容はますます感情労働とは関係なくなっています(笑)
ということで育児支援についての私個人の意見ですが、前々から書いているように私は出産・育児には外部経済があると考えていますので公的な支援は正当化可能であり、かつ現状をみれば一定の支援の拡大が必要だろうと考えています。その方法としては現時点では一応民主党政権時代の「子ども手当」のような子ども(事実上保護者ということになるでしょうが、このあたりの議論はひとまず措く)に対する金銭給付でダイレクトに支払能力を引き上げるのがいいのではないかと考えています。
これは要するに出産・育児は一種の社会的な投資として有効だろうという趣旨ですが、現時点ではとか一応はとか歯切れが悪いのは、ではいくら投資すればどれだけのリターンがあるのかということが明確でないからであり、そこが説得力ある形で提示されればさらに自信を持って意見がいえるだろうと思っています。使途にこだわる人は現金給付ではなく育児バウチャーとか言ったことを考えられるのだろうと思いますが、別に育児サービスの利用に限定せずに、自分で保育して「子ども手当」はほかのなにかに使ったとしても育児が促進されるには違いないわけなので、より使い勝手のいい(行政コストも低い)現金給付でいいのではないかと思います。流動性も高そうなのでバウチャーにしても金券屋さんを儲けさせるだけではないかな(いやそれが悪いたあ言いませんが)。もちろん、中には子ども手当を子どもの福祉には使わずに自身の遊興費に費消してしまう保護者というのもいるのではないかという批判は民主党子ども手当に対してもあったと思いますが、まあそれでも給付がないよりはあったほうが子どもにとっても多少はマシにはなるでしょう。
ただこれは支援の理由が「出産・育児に外部経済があって投資として有効だから」直接の金銭給付という方法論になるわけで、小林氏がいうような「利用者と働く人の側に立った」保育サービスの質の向上と保育士の労働条件の改善のための支援という観点からは、支払能力の向上を通じた間接的な効果を及ぼすに過ぎません(まあ何度も繰り返しているように私はそれが重要だし相当の効果があるのではないかと推測しているわけですが)。
そこで(保育そのものではなく)保育サービスの質の向上と保育士の労働条件の改善のための支援の方法論としては、まずは良質な保育を利用する子ども(保護者)に限ってその費用の一部を補助する、という方法が考えられます。しかしこれは例によって供給サイドの制約がありそうで、うまいことピノキオ幼児舎に入れた子どもとその保護者は月に数万円の補助と良質なサービスを享受するいっぽうで入れなかった子どもとその保護者はより低額の補助と低質なサービスに甘んじるという話に容易になりそうです。
したがってやはり良質なサービスを提供する事業者に必要な費用を助成するという従来から行われている手法が妥当なのだろうとは思います。全額を子どもと保護者への給付にあてるよりは、事業者への給付もバランスよく組み合わせるのが効果的なのでしょう。ちなみに介護分野では従事者の賃金を上げることに特化した助成が行われていて一定の成果が上がっているようです。
そのときに重要なのは官民のイコールフッティングで、株式会社をふくむ民間事業者を排除するのではなく、官民それぞれのよさが生きるような競争環境整備に資するような制度にすべきだろうと考えます。もちろん公費を投じる以上は保育事業者であれば誰でもいいというわけにはいかないのは当然で、一定の基準や規制を設ける必要はあると思いますが、事業者の創意くふうを阻害しない・促すような柔軟な制度・運用であってほしいと思います。
競争が嫌いな人というのは往々にして株式会社は利益第一で利用者や労働者は二の次だとか儲からなくなると利用者を見捨てて撤退するとかいう理屈をつけて競争相手を排除しようとするわけですが(いや小林氏がそうだというつもりはありませんが)、しかしその結果が投入される公費は膨張する一方、しかしサービスの質はそれほど上がらず、労働者の賃金だけが順調に上がりましたということに(いや労働条件向上はご同慶ですが)なりかねないわけですし、実際にこれが育児支援拡大に反対する人たちの理屈にもなっているわけです。適切なルールのもとでの健全な競争なくして技術革新も経済社会の発展もないということはまあ大方の共通見解ではないかと思います。繰り返しになりますがサービスの質や労働条件が改善しないのは株式会社ではなく支払能力と「0.5%」の問題ではないでしょうか。
ちなみに書いていて医療分野で似たような話を思い出したのでリンクをはっておきます。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20080328#p1
会議録のリンクは切れていて、いまはこちらで読めるようです。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/169/0029/16903250029001a.html