2015年版経労委報告

この20日に発表されていたようです。なぜか経団連ウェブサイトの政策提言/調査報告のページには目次だけしか掲載されていないのですが、機関紙のページに要約が掲載されています。

■ 持続的な成長を実現する経営環境の確立
 「東日本大震災からの復興」に加え、経済の好循環実現に向けて、短期的な重要政策課題として、「規制改革の推進」や「法人実効税率の引き下げ」など6項目を掲げ、早期かつ着実な実行を政府に求めている。
 また、雇用・労働に関する政策的な課題として、「労働時間制度改革の推進」や「多様な働き方の推進」「労働者派遣法の見直し」などについて、経団連の考え方や企業として必要となる対応策を整理している。
■ 生産性向上を実現する人材戦略
 企業が持続的に成長していくためには、生産性の向上が不可欠である。女性や高齢者、グローバル人材など、多様な人材の活躍を推進し、人材育成に努めていくことが重要である。
 また、健康でメリハリのある働き方を目指して、健康経営の推進や長時間労働の抑制に向けた取り組み、仕事と育児・介護等との両立に取り組んでいくことが求められる。
■ 2015年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢
 自社が抱える課題に労使協調して取り組むため、労使による対話の機会を増やすなど、「労使パートナーシップ対話」を充実させることが重要である。
 また、厳しい国際競争のなかで仕事の価値が変容していることなどを踏まえ、各社は自社の実情に応じて人事・賃金制度を見直しており、制度の多様化が進んでいる。今後さらに、仕事・役割・貢献度を基軸とした制度への移行が求められる。賃金等を決定する際の基本的な考え方としては、引き続き総額人件費管理を徹底する必要がある。総額人件費の多くが所定内給与に連動するかたちで決まってくることから、所定内給与を引き上げると、総額人件費は約1.7倍増加することに留意すべきである。
 14年の春季労使交渉・協議を振り返ると、労使自治の原則のもと、デフレ脱却と経済の好循環実現に向けた共通認識を踏まえながら、労使で議論を尽くした結果、各企業が多様かつ創意工夫に満ちた対応を取り、経済の好循環に一定程度寄与したと総括できる。
■ 労働側スタンスへの見解など
 すべての労働組合に対し、2%以上のベア要求を求める労働側の主張は、消費税率引き上げ分の影響を除いた物価上昇率が1%未満で推移し、企業間の業績格差が生じているなかで、納得性の高いものとはいえない。
 また、物価の変動は、賃金決定の考慮要素の一つであるが、その動向を機械的に反映すべきではなく、賃金は自社の付加価値を踏まえて総合的に判断すべきである。
■ 経営側のスタンス
 14年12月の「経済の好循環実現に向けた政労使会議」の取りまとめを踏まえて、企業労使は、デフレからの脱却を確実なものとし、経済の好循環の2巡目を回すことの重要性を踏まえていく必要がある。
 そのうえで、賃金等の労働条件は、企業労使が徹底的に議論したうえで、総額人件費の適切な管理のもと、自社の支払能力に基づき決定することが原則である。その原則に照らしながら、収益が拡大している企業は、設備投資や研究開発投資、雇用拡大等とあわせ、定期昇給の実施や賞与・一時金への反映、諸手当の改定を含めた賃金の引き上げを前向きに検討することが強く期待される。また、賃金自体が多様であるため、「賃金の引き上げ=ベースアップ」といった単純なものとはならず、ベースアップは賃金を引き上げる場合の選択肢の一つとなる。
 企業労使でさまざまな選択肢を総合的に検討しながら、企業収益を適正に配分することで、経済成長に貢献することが求められる。
http://www.keidanren.or.jp/journal/times/2015/0122_01.html

まだしっかり読んでいないのでざっくりとしたコメントしかできないのですが、まあ大筋は経団連の例年の主張を踏襲しているように思われます。賃上げについては従来にない踏み込みで、かなり強い意図があるように感じます。
さて目立つところとして3点ほどあり、一つは

…賃金等を決定する際の基本的な考え方としては、引き続き総額人件費管理を徹底する必要がある。総額人件費の多くが所定内給与に連動するかたちで決まってくることから、所定内給与を引き上げると、総額人件費は約1.7倍増加することに留意すべきである。

これが大きな問題で、繰り返し指摘されているように社会保障費の負担が労使ともに年々重くなっており、ベアの相当部分がこれで吹っ飛ぶ構造になっています(加えて多くの経団連会員企業労使には高齢者健保の負担金増がのしかかります)。もちろんそれは年金受給者の消費増や医療従事者の利益確保につながるわけなのですべてがムダというわけでありませんが、しかし社会保障改革をしっかりしたものにしない限り労使ががんばってベアを実現してもその効果は限られたものになってしまうことも間違いないものと思います。
次に、

 すべての労働組合に対し、2%以上のベア要求を求める労働側の主張は、消費税率引き上げ分の影響を除いた物価上昇率が1%未満で推移し、企業間の業績格差が生じているなかで、納得性の高いものとはいえない。

「納得性の高いものとはいえない」という微妙な言い回しをしているわけですが、労組が消費増税分も含めた物価上昇をふまえて要求するというのは私はそれなりに「まあ労組はそうだよね」と納得するのですがそうでもないのでしょうか。あとは交渉事ということになるわけですが、まあ不合理とまではいわないが使用者としてその結論では納得いかないということなのかもしれません。
もちろん業界により企業によって業績も経営見通しもさまざまでしょうから一律に言うわけにもいかず、とはいえ経済の好循環をめざす上ではマクロでは実質賃金が低下する事態は避けたいでしょう(と思うのですが)から、それなりに交渉にあたっては使用者も消費増税の影響は考慮はするでしょうが…。

…収益が拡大している企業は、設備投資や研究開発投資、雇用拡大等とあわせ、定期昇給の実施や賞与・一時金への反映、諸手当の改定を含めた賃金の引き上げを前向きに検討することが強く期待される。

これも大切なポイントと思います。もちろんバランスの問題ではありますが、やはり利益はまずは次の成長に向けた設備投資や研究開発投資に振り向けられることが望ましく、それが雇用の拡大にもつながっていくわけです。一方で有望な投資先のない資金は(まあ先々何が起こるかわからない昨今の世の中ですので一定程度の内部留保は一種の保険のような形で持っておくのも悪くはないと思いますが)株主や従業員に還元することが望ましく、これまたバランスの問題ではありますがいまや株主に還元すると相当部分が海外に流出してしまうのに対して従業員への還元の大半は国内にとどまるのでそのほうが望ましいのではないかというのもたびたび書いてきた話です。
そこでベースアップという話ですが、これまた何度も書いたように賃金には下方硬直性があり、ベースアップは固定費増に直結するので、やはり将来に向かって長期的・安定的な推移が見込めないとなかなか踏み切れないのではないかと思います。その一つの重要なポイントが上に書いたような「次の成長に向けた有望な設備投資や研究開発投資がある」ということではないでしょうか。