就職受験料

なんかこんなことが。YOMIURI ONLINEから。

 来春卒業予定の大学生らの採用を巡り、大手IT企業「ドワンゴ」(東京)が入社希望者から受験料を徴収する制度を導入した問題で、厚生労働省東京労働局が「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」として、職業安定法に基づき、次の2016年春卒の採用から自主的に徴収をやめるよう行政指導をしていたことがわかった。

 同社は「対応は今後、検討する」と説明している。

 ドワンゴは、インターネットで応募手続きが簡単になり就職希望者が殺到しているため、「本気で働きたい人に絞り込む」目的で受験料制度を導入した。受験料は、運営する「ニコニコ動画」の語呂合わせなどで2525円に設定。交通費などが多くかかる地方在住者は免除し、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県の学生に限って徴収するという。

 同社などによると、行政指導があったのは2月中旬。厚労省は「受験料制度が他社にも広がれば、お金がない学生の就職活動が制約される恐れがある」として問題視。来春卒業予定者の採用では、既に手続きのピークを過ぎているとして事実上、不問にしたが、16年春卒の採用からは徴収しないよう求めたという。

 労働者の募集に関し、職安法は「いかなる名義でも報酬を受けてはならない」と規定。厚労省は指導の中で、ドワンゴの受験料が「報酬」にあたるかどうかは明確に判断しなかったといい、同社の担当者は「受験料は報酬にはあたらない」との認識を示している。

(2014年3月2日10時34分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/net/news0/national/20140302-OYT1T00197.htm

記事にあるとおり職安法39条には「労働者の募集を行う者…は、募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。」と定めていますが、これがその報酬にあたるかどうかはなかなか悩ましいところです。直感的にこんなん報酬じゃないだろうと感じる向きも多いのではないかと思いますが、わざわざ「いかなる名義でも」と書いてあるわけなので、募集に関して金銭を受け取れはすべて報酬だというのも有力な考え方のように思われます。ざっと調べた限りでは類似の裁判例などもなく(ご存知の方、ご教示ください)、難しい問題のように思われます。まあ、記事によれば行政指導ではこれを報酬としたわけではなく「受験料制度が他社にも広がれば、お金がない学生の就職活動が制約される恐れがある」と言っているらしいので、まあ職業選択の自由の観点からの指導なのでしょうか。2525円という水準がどれほど職業選択の自由を侵害するのかはわかりませんが、それもあって「他社にも広がれば」という指導になっているのでしょう。まあ何万円とかいう受験料を求める企業が出てこないとも限りませんし。ちなみに一部には「だったら大学の受験料はなんでいいんだよ」という反応もあるようですがこれは教育でいえば義務教育段階に対応する話でしょうからそこはそのように。
さてドワンゴ社は「対応は今後検討」とのことですが、さすがに常識的にはおとなしく引っ込むということになるでしょうか。あえて突っ張って来年も続けてもらって、そのときの厚労省の出方を見たいような気がしますが。つまり行政があくまでこれをやめさせようとするなら、なんらかの法的根拠をもって禁止することが必要になりますが、どういう立論をするのかが興味深いところで、同社があくまで徹底抗戦して裁判所に行けば非常に面白い事件になるのではないかと思います。まあ興味本位で期待しちゃいかんのでしょうが。
なお受験手数料については私個人としてはいつぞやの岩波書店の要推薦と同じでその気持ちはよくわかります。同社の採用規模はエンジニア40人と企画職若干名という規模ですが、新卒の就活生からは知名度も高く将来性もある企業という評価でしょうから、まあ相当数の応募があることは容易に推測できます。ということで、ウェブサイト(http://info.dwango.co.jp/recruit/graduate/guideline01/)にもわりと正直に書いてありますが、採用業務の規模縮小・負荷軽減のために効果的なスクリーニングをしたいというニーズは相当にあるだろうと思うからです。
そのために受験料を徴収するというのはたぶん最も単純なアイデアでしょうが、職安法上の問題もあるので選考経費に充填する(手数料=報酬とみなされやすい)ことなく全額を寄付に充てることとし、その理屈も「応募者の本気度をみる」ということにしたのだろうと思われます。遠隔地から受験する人はそれだけで本気度は確認できるので受験料の徴収は要しないということですね。あと、多少なりともおカネを払ったということで、内定辞退が減るという効果も期待できるのかもしれません(まあ本気度が高いということは辞退しないということでもある)。
ということで、合格すれば儲けものとか、第2志望第3志望とかいう受験者を減らすことが目的であって、経費補填には充てずに寄付するというのであれば、事前に就活生に2525円を指定の団体等に寄付してもらい、その領収書を添付することを受験資格にするということでよかったのではないかなとは思います。これなら少なくとも報酬がどうこうという話にはなりません。社会貢献に関心のある人材がほしいという理屈も成り立つでしょうし、実際ボランティア経験を応募資格にしている企業・団体とかもあるでしょう。それが能力かといわれると微妙ではあるので、TOEICの青紙を持ってこいとかいうのとは一緒にできないでしょうし、「他社にも広がれば」という理屈に変わりがあるわけでもないですが、しかし行政が止めにくくはなるような気がします。