藤本篤志『社畜のススメ』

日比谷図書館がリニューアルオープンしたとのことでしたので、ちょっと読みたい論文などもあったこともこれあり役所に行ったついでに寄ってきました。地方在勤時には都心で空き時間ができた時に便利に利用しておりましたので、一昨年の休館以降はちょっと不便でした(まあモバイル持ち歩くのが面倒なこともありキンコーズとかでレンタルPC使うことが多くなってはいたんですが)。
建物自体は以前のままで、行ったことのある人はわかると思いますが図書室の床の妙なでっぱりも健在でしたが(相当に体裁よくはなっていましたが)、内装は一新されて改修前に較べて大変に明るい感じになっていて非常によろしかったのではないでしょうか。一番大きく変わったのは従来は2階フロアだけだった図書室が2階・3階の2フロアとなり、3階にあった閲覧室が4階に移ったことで、図書室スペースが倍増したことにより書棚が低くなり、また図書室内の閲覧スペースなども大幅に拡充されました。以前は統計資料とか詰め込まれていた半端なスペースは企画展示のコーナーになっていて、日比谷図書館の歴史だのフィンランドの風俗だのの展示もさすがに気合が入ってました。そういえば端末が10台以上並んだインターネットコーナーもありました。誰も使ってませんでしたが。いや利用者数自体は平日の日中ということを考えればけっこうな人数でご同慶でしたので、たぶんこんな時間帯に図書館来る人はインターネットとかあまり使わない人なのでしょう。
ちなみに都から千代田区に移管されていたのだそうで、名称も千代田区立日比谷図書文化館となっていました。職員の制服が変わったのはこのせいかな。いや職員の雇用は引き継がれたのでしょうか。都も千代田区も財政状態は良好でしょうから労働条件が大きく下がるといったこともなかろうとは想像するのですが、でも職員としてみれば東京都職員と千代田区職員では気分が違うでしょうし、組合員は東京都職を抜けて千代田区職に移ったのだろうか…などと余計な心配をする私。
さて余談が長くなりましたが本つながりで、『御社の営業がダメな理由』*1の藤本篤志さんが、新潮新書で『社畜のススメ』という刺激的なタイトルの本を出されたそうです。

例によって「オビ」をみると「自己啓発本マニア、口ばっかりの若手社員、夢見がちな転職難民、イタい社員はもういらない!」という、これまた刺激的な惹句が並び、「ドギツいタイトルを見て、冗談かと思った人もいれば、眉をひそめて嫌悪感を示した人もいることでしょう。でも、本書に書いたことはサラリーマンすべてに通じる普遍的な処世術である。私にはその確信があります。」との引用があり、「誰も言えなかった!批判覚悟のサラリーマン論」と締められています。

社畜のススメ (新潮新書)

社畜のススメ (新潮新書)

内容の概要が以下にあります。
http://www.granddesigns.jp/book/susume_pr.pdf
なかなか面白いので以下引用しましょう。

社畜」こそ、サラリーマンが選択すべき最も賢い”戦略”である。
組織人としての歯車的な没個性が哀れな存在という“常識”はウソだった――

なぜいま「社畜」なのか?
 これまで「社畜」という言葉は、「家畜のように会社に従い、自分の意志や信念を捨ててしまったサラリーマン」という意味で使われ、蔑みや批判の対象でした。しかし、多くの企業や職場を見てきた著者は、「社畜」であることを放棄したサラリーマンこそ苦しんでいることに気づきます。若手のうちから個性や自由を求めたり、キャリアアップを夢見て転職難民になったり、安易な自己啓発書にすがったり……。
 「ひとりよがりの狭い価値観を捨て、まっさらな頭で仕事と向き合う。自分を過剰評価せず、組織の一員としての自覚を持つ」本書で提唱するのは、こうした姿勢をもつ「クレバーな社畜」です。
 サラリーマンには「社畜経験」が不可欠である、本当に成長するための最も賢い“戦略”である――その理由を解説します。

▼個性は「孤性」に変貌しやすい(p.29)
 楽譜通りに演奏する実力もない演奏者が「アドリブ弾いて私の個性を発揮したい」と駄々をこねても誰も認めないのと同様、基礎鍛錬が未熟なサラリーマンの「個性」の主張は、残念ながら、独り善がりの「孤性」としか承認されません。サラリーマンにとって最も不幸なことは、「個性」を発揮する場がないことではなく、組織の中で「孤性化」してしまい、居場所がなくなってしまうことです。誰も言わなかったサラリーマンの本質に迫ります。

▼ビジネス書は著者の経歴を読め(p.95)
 勝間和代氏の『断る力』には、「仕事を断る力こそスペシャリティの条件だ」と書かれています。しかし、彼女は「入社後の十年は上司の命令を素直にこなし、その結果いち早く出世して大きな仕事を任された」とも振り返っています。個性のすばらしさを賛美するビジネス書の著者の多くも、身を粉にして働いた経験があり、それが成功の礎になっています。しかし、読者の多くはそうした過去に目をつぶり、安易なノウハウや都合のいいメッセージにばかり目を向けるのです。

▼「クレバーな社畜」になる18カ条(p.165)
 「社畜になれ」といっても、ただ会社の言いなりになるのでは、単なる奴隷です。クレバーで能動的な社畜にならなければ、戦略になりえません。本書では「社内人脈を広げる」「配属三ヶ月でセンスを見極める」など具体的な実践法を紹介します。

これを読む限りサラリーマン的にはわりと普通の話かなあと思うわけで、正直自己啓発書ジャンという印象も禁じえない(失礼)のではありますが、まずはそこに「社畜」という概念を持ち込み、この刺激的な書名をつけたという卓越した営業センスに感心します。
ただまあ「批判覚悟」とのことであり、たしかに書名を見ただけで「眉をひそめて嫌悪感を示」す人もいるでしょう(そういう人はたいてい中身までは読まないとしたものですが)。特に(推測される藤本氏の意味での)社畜になりたかったけどなれなかった人とかが「経団連のエア御用本w」とか騒ぎ出しそうだなあ(笑)。経営コンサルタントですから当たり前ではあるのですが。
私はといえばキャリアのほぼすべてが部下なしのヒラ社員のうえ社内外に特段の親分子分関係も持たないというまったくの野良社員なので、残念ながら定義上社畜とは言えそうにありません(「野良」は「畜」の反対概念ですよねえ)。ということで、休日に本屋で見かけたら立ち読みしよう(だから読書タグではなく日記タグにした)。

*1:この紹介がいちばんわかりやすいでしょう。ちなみに現職は株式会社グランド・デザインズ代表取締役とのこと。http://www.granddesigns.jp/。なお私は藤本氏がスタッフサービス・ホールディングスにおられた当時(もう10年くらい前)にたびたびお世話になりました。