期間の定めの有無による処遇の相違

一昨日開催された労働政策審議会労働条件分科会の資料が厚生労働省のウェブサイトに掲載されておりました。
有期労働契約について議論されているわけですが、労使の意見の隔たりが大きい上に労使ともに業界間で異なる事情を抱える問題であり、分科会は昨年来繰り返し開催されているもののまったくまとまる気配がなく、この調子では厚労省の目指す本年内のとりまとめはまあ無理だろうなあ…ということは8月1日付けのエントリですでに書きました(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110801#p1)。で、今回また「追加資料」として「有期労働契約の在り方に関する論点」が提出されていますが、少なくとも文面をみるかぎり8月時点から一歩も進んでいないという印象で、まあ水面下では落としどころが探られてはいるのでしょうが、あくまで年内とりまとめを目指すのであればもうそれほど大きなことはできないでしょう。まあ以前も書いたように雇止め法理の成文化と、あとは指針の中で法律にしても影響なさそうなものを法律にして形を整えるとかいうことにとどまってしまうのでしょうか…こちらは高年齢者雇用と異なり新成長戦略の記載も「なにかやれば」足りそうな感じですし。私としては、これまたたびたび書いていますが雇止め法理は予防的な雇止めを促進するという点で労働者にもデメリットがあり、労使双方にメリットのある形での見直しが可能と思っているので、そのまま成文化するのは残念だと思いますが、まあなにかは必ずやらなければならず、かつ労使がそれでしか折れ合えないのであれば致し方ないのかなあという感想です。
さて今回ひっかかったのはこの資料ではなく、資料1の「有期労働契約の不合理・不適正な利用と認められうるものの例」です。(実態、法令、裁判例等から)と書いてあるのですが、まあ必要以上に短い期間での反復更新や雇止め法理に抵触するようなもの、それから個別の労働者の同意を得ることなく就業規則の変更で無期契約を一方的に有期契約に変更することも、たしかに「法令、裁判例から」「認められうるものの例」であるでしょう。
それに対し、「期間の定めがあることのみを理由として、処遇について差別的取扱いをすること」という記述については、ここまであからさまに「処遇が異なるのは不合理」と言わんばかりの書き方をされるとさすがに勘弁してくれという感じになります。いや上の「在り方に関する論点(案)」でも期間の定めを理由とする不合理な処遇の禁止についてどう考えるか、といった記載があるのですが、これまたこれまでも繰り返し書いているように、期間の定めの有無は人事管理上かなり決定的な相違であり、したがって処遇も相違することが当然であるという立場を私はとっています。もちろんあまりに不均衡なのは不合理・不適切である可能性は否定しませんが、しかし団体交渉や労働市場の需給関係などの合法・合理的な方法で決まった処遇については基本的に結果も合理的と考えるよりないのではないか、というのもたびたび書いてきたとおりです。まあ「認められうる」だからわずかでも可能性があれば「認められうる」のであり、不合理とまでは言えなくても不適切なケースはあるかもしれないじゃないか、ということかもしれませんが、それにしても。
で、資料は(参考)として具体的に通勤手当の例をあげていて、有期が81.1%であるところ正社員が87.3%であり、処遇格差があるが接近しているからこのくらいは格差をなくしてもいいじゃないか…ということを言いたいのでしょうか。
しかしこれもかなり疑問で、たとえば地方に立地する製造業の事業所などの場合、繁忙期に対応するために有期労働契約を活用しているわけですが、有期の人については宿舎を提供して通勤用のバスを配車するいっぽう、無期の正社員については集合社宅居住者であっても自家用車通勤用の駐車場を準備しているといった違いは普通にみられるわけで、これは有期/無期の特性に応じた、それなりに理にかなった取り扱いではないでしょうか。繰り返しになりますが期間の定めの有無はかなり大きな違いですので、処遇の差が不合理、不適切というのは考えるにしても相当程度限定的に考えるべきものではないかと思います。