政策が場当たり的で将来を予見できない

本日の日経夕刊のコラム「十字路」で、東レ経営研究所の増田チーフエコノミストが大いに賛同できる見解を示しておられたので備忘的に転載しておきます。

 グローバル化が進むと、企業は一番ビジネスしやすい国に拠点を移すことができる。「企業が国を選ぶ」時代には、自国の産業を強くして雇用を生み出すことが政府の重要な役割となる。企業に冷たい政策がとられる国では、産業が衰退し、雇用が失われ、家計も貧しくなる。
 民主党政権は発足当初はこの点を理解していなかった。だが、昨年には新成長戦略を発表し、産業政策の重要性を認識したと思われた。しかし、最近の菅政権の政策運営を見ると、産業や雇用への関心を再び失ったかのようだ。
 日本経済は今、産業空洞化の危機に直面している。従来から日本は、円高、高い法人税、貿易自由化の遅れ、厳しい二酸化炭素削減目標、高い労働コストなど、製造業の競争力を阻害する要因が山積していた。東日本大震災の後、これに電力不足が加わった。法人税減税が見送りとなり、環太平洋経済連携協定(TPP)参加の議論が先送りされるなど、日本の立地条件は著しく悪化している。
 このままでは企業の海外シフトが加速することは確実だ。新興国需要を取り込むための企業の海外展開や、災害対策でリスクを分散するための海外生産移転などは、合理的で不可逆的な動きだ。しかし、これまで国内に踏みとどまっていた生産拠点が一斉にこの国を見限って海外に移り、国内の雇用が失われる事態は回避しなければならない。
 定期点検で停止した原子力発電所が再稼働できる見通しが立たず、来年の電力供給がどうなるのか誰にも分からない。首相が脱原発・再生エネルギー推進を口にしながら、いかなる方法や時間軸でそれを進めるかが示されない。このような環境下では、企業は事業計画すら立てられない。
 空洞化回避への第一歩として、政策が場当たり的で将来を予見できない状態を一刻も早く解消する必要がある。(東レ経営研究所産業経済調査部チーフエコノミスト 増田貴司)
平成23年7月22日付日本経済新聞夕刊から)

指摘された問題点はいずれも重要ですが、最大の問題は最後にあるように「政策が場当たり的で将来を予見できない」ことではないでしょうか。実際、現政権が次々と打ち出す政策は、個別に見ればそれなりにもっともであったり必要であったりするのですが、しかしそれを打ち出すにあたって課題はなにか、必要な費用や時間はいかほどか、といったことが議論された形跡はほとんどありません。たとえば2020年に再生エネルギーが20%というのは、そりゃできたらいいなあとは思いますし、脱原発依存にしてもそれ自体は結構な話ですが、しかしそのために何をやるのかとか、それが仮にできたらどんな世の中になるのかとか言った議論はほとんどなく、あたかも国の政策方針であるかのように発表されたあとで実は個人的見解でしたとの修正が入るなど、まことに予見可能性の低い状態にあります。
これでは企業としても設備投資や商品開発などの経営計画は立案できないわけで、結局は国内でやることは最小限にして海外でできることは海外で、となるのも致し方のないところでしょう。政界だけでなく経済界からも政権(もっぱら首相ですが)への退陣要求が声高なのは、政策の良し悪し以上に、これが最大の理由ではないかと思われます。
なお、「高い労働費用」は円安になれば相当程度解決するので、あとは民主党政権下での規制強化バックラッシュをストップできれば克服可能かもしれません。