長期化する米国の失業

今朝の日経新聞に、14日付英フィナンシャル・タイムズ紙の特約記事が掲載されていましたので備忘的に転載しておきます。

 2009年6月に金融危機後の景気後退(リセッション)から脱却して2年間、米国は緩やかな景気回復を遂げてきた。だが、雇用市場ではほとんど回復がみられない。先週発表された6月の雇用統計によれば、失業率は再び悪化し9.2%となった。純ベースでの雇用創出はほぼ停止状態にある。雇用者数は前月比1万8000人増にとどまり、通常の景気回復局面で想定される増加幅の10分の1を下回った。
 米ブルッキングス研究所の政策提言グループ「ハミルトン・プロジェクト」は毎月、金融危機以前の就業率を回復するのに必要な雇用者数に基づき「雇用ギャップ」を算出している。6月、この数値は1230万人に拡大した。今後労働力が増加に転じ、過去10年間で最高水準(月20万人をやや上回る程度)の雇用が創出されると仮定しても、このギャップを解消するには12年かかる計算だ。
 現在雇用が減少している主たる原因は需要の低迷。だが、需要が回復しても、米雇用市場が長期的な構造問題を抱えていることが明らかになるだろう。最大の問題は長期失業者の増大にあるからだ。
 失業率が高止まりしているのは、新たな解雇が発生しているからではなく、雇用が非常に緩慢なのが原因。労働市場流動性が低下すれば、失業期間は長期化する。現在の平均失業期間は40週に及び、失業者の半数近くが27週以上職に就けていない。通常、長期失業者数は全失業者の5分の1以下にとどまる。こうした数字には職探しを断念した人の数が含まれていない。
 失業期間が長期に及ぶと、労働者がスキルや転職能力を養う機会を奪うことになる。これは欧州では旧知の事実だが、米国にとっては新たな問題であり、そのため米国では対策が確立されていない。米国のセーフティーネット(安全網)は欧州の標準的なものほど寛容ではないため、失業期間の長期化が社会に与える影響はより深刻だ。失業期間が長引けば、健康保険の受給資格も失う。その結果、メディケア(高齢者向け公的医療保険)やメディケイド(低所得者向け公的医療保険)の受給を余儀なくされる。だが現在の状況では、こうした公的医療保険はすでに深刻な財政圧力にさらされている。
 米政府は2つの点で緊急の対応を要するこの時期に、機能不全に陥っているように思える。中期的には財政再建への道筋をつける一方、短期的な景気刺激策を維持することにより財政政策を立て直さなくてはならない。さらに、セーフティーネットを改善し、失業者に支援を与え、彼らが職を見つけやすくすることだ。長期失業者の増大という米国が直面する新たな問題への対応が遅れれば、その解決は困難になるだろう。
(14日付)
=英フィナンシャル・タイムズ特約
平成23年7月15日付日本経済新聞朝刊から)

流動化マンセー厨の方々は往々にして「米国は解雇が容易だが労働市場が機能して再就職も容易であり、したがって成長分野への人材の移動が起こりやすく産業構造の転換がはかられやすい」などと主張されているように思いますが、しかし成長分野がないときにはどうなるかというとこうなるわけですね。まあこれまでずっと成長分野があったというのが立派だという見方もできます。
また、一部には米国では能力不足とか、あるいはなんとなく合わないとか気に入らないとかいったミスマッチでも解雇が可能であり、その欠員補充は(内部での異動もあるにせよ結局は)同じように解雇された人によって埋められることになってマッチングは改善するのだから、解雇自由化は(経済状況にかかわらず)企業にも働く人にもいいことだという理屈も、少なくとも雇用が拡大しない中ではうまく成り立っていないようだとも言えそうに思えます。