相撲協会と親方衆

ちょっと労働法タグは貼りにくいのでネタということで。たまにはスポーツ欄から。

 「年寄名跡年寄株)の売買禁止」など、日本相撲協会の第三者機関「ガバナンス(組織統治)の整備に関する独立委員会」が提言した抜本策について、相撲協会が採用を見送る方針を固めたことが19日、関係者の話で分かった。…
 関係者によると、協会は工程表案の中で、協会と親方との関係について独立委が示した「雇用関係」ではなく協会の監督権限が弱い「委任契約」がふさわしいとした。その上で、不透明な取引と指摘されることが多く、独立委が禁止を求めていた「年寄株の売買」について、協会が関知しない経済的行為として容認するとの方針を示した。
平成23年5月20日日本経済新聞朝刊から)

私は大相撲や日本相撲協会がどうなろうと関心はないのでどうでもいいのですが、それにしてもしごき稽古の時津風親方って「解雇」されたんじゃなかったかなあ野球賭博の大嶽親方とか八百長相撲の谷川親方とかも「解雇」されたような気が。
さてはこの「解雇」は一般的な意味の解雇ではなくて、委任打ち切り処分のことを相撲協会の懲戒規定でそう呼んでいるということかなあなどと想像しながら相撲協会のサイトをみてみましたが当然そんな規定が公開されているわけもなく(まあこれは公開されてないほうが普通といえば普通だ)、とりあえず寄附行為を読んでいたらこんなくだりがありました。

 第 7 章 年寄、力士および行司その他
(年 寄)
第35条 この法人には、年寄をおく。
2  年寄は、年寄名跡を襲名した者とする。
3  年寄名跡の襲名については、理事会の議決を経て、別に定める。
4  年寄は、有給とすることができる。

うーん委任契約で「有給とすることができる」って言いますかねえ?まあ、所得税法上の給与には含まれるので「有給」でいいのかな。ちなみに力士および行事その他は「有給とする」となっています。まあ「とすることができる」というのは委任は原則無償だということを意識しているのでしょうし、力士および行事その他についても労働契約なら当然のことをわざわざ書いているということは委任なんだよということでしょうか。琴光喜も「解雇」されたと思ったけどなあ。まあ繰り返しになりますがそういう独自の用語なんでしょうきっと。
ちなみに記事によれば雇用でなく委任とするのは引き続き年寄株の売買を可能とするという意図らしいのですが、まあ現実には取得する年寄株を担保にして取得費用の融資を受けている例なんかもあるんでしょうからいきなり禁止するのは乱暴だろうとは私も思います(これは禁止するならなんらかの移行措置や救済措置が必要だろうということで、禁止自体については特段の賛否は持ち合わせていません)。ただ仮に、委任だと協会は年寄が年寄株を売買することを禁止できないが、雇用だと禁止できる(これが本当にそうかには疑問がありますが)として、別に雇用だと必ず規制しなければならないということにはどうしたってならないと思うのですがどんなもんなんでしょう。
まあ、記事にもあるように、世間から「年寄株の売買は、会社でいえば正社員になるために、金で権利を取引しているということ」といった批判を受ける可能性はたしかにあるでしょう(もっとも金で権利を取引すること自体は当たり前にある話ですが)。とはいえ年寄株保有することを採用の条件とすることについては明示的に禁止されているわけではありませんし、まあ一応は業務上の必要性*1も主張しうる(別に主張できなくても不当とはされないかもしれません)でしょうから、まあ裁判所に持ち込もうという人もいないでしょう(実際持ち込み方はかなり難しそう)から、雇用だけど年寄株の売買は禁止しませんよということでも現実の支障はないのでは。別に委任契約だって「年寄株を持ってる人にしか委任しません」というのが不当だとされる可能性は労働契約とたいして変わらないと思われるわけですし。というか実態としては労働契約とほとんど違わないわけなので裁判所の判断だって同じようなものになるでしょう。
ただまあ、業務に年寄株保有が必要かどうかについては、現に長年そういう条件で年寄を委任し、その中から理事を選んできたことの帰結が現状のていたらくなわけですから、結論は出てしまっているという感もありますが。

*1:記事にもありますが保有者は相撲文化の理解者にしか売らないと考えられる(なぜ?)とか、高額の対価を支払ってまで年寄株保有することが相撲道(笑)に対する熱意を示しているとか。