小嶌典明『労働市場改革のミッション』

小嶌典明先生から、ご著書『労働市場改革のミッション』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

労働市場改革のミッション

労働市場改革のミッション

著者は7年半の長きにわたって労働法関連の規制改革に取り組んだ異色の(と紹介しても怒られないと思います)労働法学者であり、本書はこの間に上梓された規制改革に関する論文が集められたかなりユニークな法律書です(雑誌・新聞などに寄せた記事も収載されています)。本書内ではあまり取り上げられていないようですが、勤務先である大阪大学の法人化にあたっては就業規則の整備、過半数代表者との協定といった実務経験も有しておられることも本書の主張の背景になっているのでしょう。
2007年、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプション制の導入をふくむ労働基準法改正法案が上程されようとした際、マスコミなどがこれに対して「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」などと実際の法案とは無関係なネガティブタームを用いたキャンペーンを張り、選挙への影響を恐れた当時の政権与党がこれを改正法案から除外するということがありました。これがいかに改正法案の内容と異なるものであったかについては当時このブログでも繰り返し書きました。
それ以降、あらゆる労働問題はすべてそれ以前の規制緩和の結果であるとの極端な論調が強まり、今日にいたるまで労働市場の規制改革について冷静な議論ができにくい状況にあるように思われます(そうした中でも粘り強く協議して一定の合意点を見出している審議会等の政・公労使代表の各位にはおおいに敬意を表したいと思います)。
こうした中で、当時どのような考え方にもとづいて、なにを意図して規制改革を進めようとしていたのかを改めて振り返るという意味で、本書はまことに貴重なように思われます。もちろん、著者の所論には異論のある人は多いでしょう(私も一部には異論を有しています)が、事実に基づく冷静な議論が必要だという点には同意する人もまた多いのではないかと思います。もっとも、その「事実」が論者によって異なる(たとえば、紛争処理に尽力する当事者にとっては、紛争こそが現実であり「事実」となる)といった難しさが依然としてあるわけですが…。