流出海上保安官、停職処分へ

今朝の日経新聞で、尖閣諸島沖の中国漁船衝突映像を流出させた海上保安官が停職処分になると報じられていました。

 海上保安庁20日尖閣諸島沖の中国漁船衝突ビデオ映像の流出事件で、流出させたと認めている第5管区海上保安本部(神戸市)の男性海上保安官(43)を週内にも停職の懲戒処分とする方向で調整に入った。既に提出されている辞職届を受理し、依願退職させる。映像の管理が不適切だったとして、同庁の鈴木久泰長官ら数十人も懲戒処分や内規上の処分とする見通しだが、長官は減給とし、更迭は見送る方向だ。

 同事件を巡っては、警視庁が近く海上保安官国家公務員法守秘義務)違反容疑で書類送検する方針を固めている。東京地検は、映像の秘密性の程度や、懲戒処分で一定の社会的制裁を受けることを考慮し、年明けに起訴猶予の方向で刑事処分を決めるとみられる。
海上保安官は既に辞職届を出しているが、辞職を認めると処分できなくなるため、海保は受理していない。鈴木長官については、映像が流出した当初、責任論が浮上したが、国交相は事件内容を精査し、更迭しないとの判断に至ったとみられる。
 映像データは、海上保安大学校広島県呉市)の職員が第11管区海上保安本部(那覇市)からの送信を受け、9月中旬から下旬にかけて数日間、海保職員なら誰でも閲覧可能な共用フォルダーに放置したことが判明。この間に取り込まれた映像が海上保安官の手に渡り、流出につながった。
 このため海保は、映像データの管理にかかわった海保大学校の担当職員らも処分する方針だ。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C889DE0E2E0EBE7E2EBE2E0E3E3E0E0E2E3E29180EAE2E2E2

過去エントリでも書きましたが、この海上保安官がユーチューブに投稿した時点ではこの動画を秘密とすることが組織として決定されており、それを承知の上で流出させたわけですから、非違行為であるには違いなく、刑事処分云々とは別に組織としてなんらかの処分は必要だろうと思います。非違行為の類型としても機密漏洩はかなり悪質かつ損害も大きくなるおそれがあり、処分の内容もかなり厳罰でいいのではないか、懲戒免職もあり得べしかなあなどと思っていたのですが、本人が退職を申し出ているのであれば、停職にとどめて依願退職させるというのは(他の諸事情も考慮に入れて)バランスのいい判断ではないのかなあと、まあ部外者の勝手な感想ではありますが、そう思います。現実的な違いとしては退職金が出るかどうかと残余の年次有給休暇の取り扱いくらいだと思うのですが、それほど問題になるような金額ではたぶんないでしょう(そうなのか?)。あと実務的には停職期間をどうするかというのがけっこう重要なのですが、このケースでは退職してしまうわけですから形式的な問題にすぎません。
それより意外だったのは「映像の管理が不適切だったとして、同庁の鈴木久泰長官ら数十人も懲戒処分や内規上の処分とする」という部分で、どこまでやるのか具体的にはわかりませんが、しかし監督責任を問い得る上司筋はともかく*1として、流出にかかわったわけでもない情報管理担当者まで処分するというのはややオーバーシュートの感があります。地元紙の神戸新聞はこう伝えています。

 尖閣諸島付近の中国漁船衝突の映像流出事件で、海上保安庁が50人以上の大量処分を検討していることに対し、流出への関与を認めた海上保安官(43)が所属する第5管区海上保安本部(神戸)では20日、職員らから「こんなに多いとは」と驚きの声が漏れた。
 処分は保安官の同僚や上司、映像を管理した11管本部や海保大学校(広島)の職員にも及ぶとみられる。5管本部の職員は「大半の職員は流出に直接かかわっていない。厳しすぎるのでは」。別の職員は「覚悟はしていた。われわれは処分を受ける側。何も言えない」と繰り返した。
 ただ、保安官以外のほとんどは訓告や厳重注意にとどまるとみられ、年内にも開かれる懲罰委員会で決定するという。
http://www.kobe-np.co.jp/news/jiken/0003687843.shtml

私は詳しい状況や経緯を知らないのでよくわかりませんし、推測と仮定の議論になりますが、しかし第11管区の職員については、海上保安大学校に送付した時点ではおそらくまだこの動画をどこまで秘密扱いするかが決まっておらず、周知もされていなかったのでしょうから(この時点で厳秘扱いを決定し周知していたのなら話はまったく別ですが)、だとすればさすがに処分するのは無理というものでしょう。
海上保安大学校の職員がそれを「海保職員なら誰でも閲覧可能な共用フォルダーに放置した」のが問題になるのも、同様にこれを秘密扱いとすることが決定され周知されて以降に限られると考えるべきでしょう。それを知りながらうっかり(かどうか知らないが)閲覧制限をしなかったというのなら、それはたしかに職員にも非はありますが、どの程度の処分が適当かどうか。事情を考えればまあ厳重注意(というのがあるかどうかも知りませんが)とかがせいぜいで、あまり強くは問えないのではないかと思います。
「保安官の同僚」に至っては、流出を唆したとか、流出の意図があると知らされていたにもかかわらずそれを放置し、上司への相談なども怠ったというのでもあれば格別、単にいっしょになって見ていたくらいでも処分しようというのであればやはりそれは無理というものでしょう。しかしそのくらい手を広げないと50人にまではならないでしょうから、やるつもりなのかもしれません。
海保がここまで話を大きくするのは、一罰百戒で機密管理体制の綱紀の引き締めをはかり、周囲にもこんなに迷惑がかかるよということを示して再発を防止したいということなのかもしれませんが、しかし高校野球か江戸時代の五人組ですかという感はなきにしもあらず。あるいは社会向け、政治家向けのアピールということなのかもしれませんが、まあ世間をお騒がせしたのだからそれなりに目立つ処分をというのはあり得なくもないのかもしれませんが…。

*1:ちなみに本人を停職にとどめるのであれば長官を更迭するのはさすがに均衡を失すると思われます。