米国の派遣労働

きのうの日経新聞で、米国での派遣労働者の増加を伝える英フィナンシャル・タイムズ紙の記事が紹介されていましたので、備忘的に転記しておきます。

 米国オハイオ州クリーブランドの印刷会社、グレートレークス・インテグレイテド社はここ6カ月の社業回復を受けて、派遣労働者(テンポラリー・ワーカー)を雇用し始めた。しかし今回は従来と違ってその9割は長期に雇用する方針だ。「経費だけでなく様々なリスクも減らせる」とマイク・スチュアート同社副社長は語る。
 先週発表された米国の非農業部門の雇用統計は暗いものだった。失業率はここ7カ月で最高の9.8%に上昇。その一方で派遣労働者数は増加した。11月の全体の雇用者数は3万9千人増加だったが、その中で派遣労働者は4万人増えた。派遣労働者は2009年9月に最近では最低の水準に落ち込んだが、それ以降は49万4千人増えた。全雇用者は同時期に90万1千人増だ。
 多くのエコノミストは前回のリセッション(景気後退)で派遣雇用に傾斜する構造的な変化が起きたと分析する。雇用全体に占める派遣雇用の比率が上がった。
 クレディ・スイスのダナ・サポルタ氏は「派遣雇用は一般的には常用雇用への一歩だが今回は派遣雇用が従来に比べ常態化しているようだ」と述べた。人材派遣会社のケリー・サービシズによると、同社の派遣労働者数は前年比20〜25%増えている。
 派遣労働は事務職と軽工業部門だけでなく、専門職にも広がっている。
 投資家は米国の消費増加を期待しているが、派遣労働者はその期待にはあまり応えられそうにない。
 ジョージタウン大のアンソニー・カーネベール氏は「雇用者はリスクを被雇用者とほかの雇用者に転嫁している。これが一時的なことだと考えるなら、何も見ていないことと同じだ」と強調した。(7日付)=英フィナンシャル・タイムズ特約
(平成22年12月8日付日本経済新聞朝刊から)

翻訳の要約なのでなんともわからないのではありますが、随意雇用の国である米国でも、それなりにパーマネントよりはテンポラリーのほうが雇用調整しやすいのでしょうか。常時解雇可能なパーマネントのほうが、有期契約のテンポラリーのほうが短期的には調整が難しいような気もしますが…。
まあ、雇用期間においてはパーマネントのほうがテンポラリーより長期が期待できるという面はありそうです。おそらくは技能レベルや労働条件もテンポラリーのほうが低いのかもしれません。それで「消費増加の期待に応えられそうにない」ということになるのでしょうか。
いずれにしても、日本などとの比較においては、米国でテンポラリーが活用される理由は雇用調整の柔軟性より人材確保の容易さ、迅速性にあるような気がします。
逆にいえば、失業者にしても派遣を利用することで職探しが容易になり、再就職につながりやすいという側面が強いのではないでしょうか。となると、不況期、それも長期不況期に派遣労働の比率が上がるというのは納得のいく話ではあります。また、不況が長期化するほどに、比較的労働条件の良好なパーマネントへの転換が進まないのもうなずけます。
たしか米国では日本以上に派遣の比率は低く、たしか1〜2%程度(ウラを取っていないので根拠なし)だったと記憶しています。なにをもって(循環要因ではない)「構造的な変化」なのかはこれを読む限りでは私には不明なのですが、多くのエコノミストがそうだと言っているのならそうなのでしょうが…。