解雇規制の見直し

26日のエントリで「「解雇規制の見直し、消費税の引き上げ、法人税の引き下げ」という結論の項目だけをみれば私とだってそれほど大きく違うということもない」と書いたところ、思いがけない反応が複数寄せられました。なにかといえば、大意で「貴様は解雇権濫用法理や整理解雇の4要素は概ね妥当であって緩和の必要はないと言っていたではないか、いつから解雇規制を見直せと言うようになったのか」という疑問です。
たしかに、私は解雇に合理性と相当性を求める解雇権濫用法理は概ね妥当だと考えていますし、整理解雇の4要素についても、それが個別事案に応じて柔軟にあてはめられるのであればまず妥当だと考えています。
いっぽう、解雇規制をめぐって「規制強化派−現状維持派−規制緩和派」に分けるとすれば、私はおそらく規制緩和派に入るのではないかとも考えています。なぜなら、過去からこのブログをお読みの方はご承知のとおり、私は「雇用形態・雇用契約の多様化」をかねてから主張しているからです。
具体的には、5年、10年といった長期の有期雇用(もちろん、労働者はいつでも自由に退職できる片務的なもの*1)や、勤務地を限定して当該勤務地での仕事がなくなった場合*2には退職することを予定した契約や、同様に職種を限定して、当該職種がなくなった場合には退職することを予定した契約なども認められるべきだと考えているわけです。しかし、有期労働契約研究会での議論でもあったように、仮に有期労働契約の期間の上限を10年にまで延長したとしても、具体的な期間満了・雇止めの事例において、裁判所が解雇権濫用法理を類推適用する可能性は排除されません。勤務地限定、職種限定の労働契約にしても同様、予定された要件の発生によって退職となった場合、それが当然に有効とされるかどうかは現時点では不明確です。
したがって、こうした雇用契約が疑問の余地なく可能になるとすれば、それは現状と比較して退職過程の選択肢が増えることとなり、一種の解雇規制緩和としての効果を持つことになるでしょう*3。ということで、私は先ほどの「強化・維持・緩和」の三分類にあてはめるとしたら「緩和」に入るでしょうし、26日のエントリの文脈において(「解雇規制の緩和」ではなく)「解雇規制の見直し」との表現で「それほど大きく違うということもない」と書いたのも事実どおりであって、なんら見解を変更したわけではありません。
ただし、私の考える解雇規制の見直しは上記のようなものであって、藤沢数希氏がおそらく考えているであろう解雇規制の緩和とは内容的には大きく異なるものであることは申し上げるまでもありません。これまた、26日のエントリで続けて「考え方や理念などは相当違うとも感じており、したがって具体論はかなり異なる」と書いているとおりです。

*1:ただし、これは事実上の女性のみ若年定年制といった運用が行われないよう留意が必要です。

*2:これは、具体的には拠点の撤退といったケースに限らず、拠点の縮小にともない勤務地を限定しない契約より優先的に勤務地限定契約の人が退職するといったケースも想定しています。職種限定契約も同様。

*3:なお、これらの契約は、勤務地での定住を期待する人や、特定職種でのキャリア形成を希望する人にとっては望ましいものとなる可能性もあり、労働者にとっても一定のメリットが期待できます。