自民党マニフェスト

ということで今朝も政見放送を聞きながら出勤しまして、聞いてない人が読んでもわけわからんだろうと思うのではありますが少し感想を書きます。例によって居酒屋政談ですのでグダグダ書きますがツッコミはなしということで(笑)。それから運転中にラジオで聞いていた話なので誤解や勘違いや抜けが多々あるはずですので予め御容赦を。
さて女性候補5人が5人とも、党派によって内容は異なるものの共通して教育問題とか少子化対策とかを主張していて、それ自体はそれが売りなんでしょうから当然といえば当然でしょうが、それにしても民主党女性候補が「家庭で手作りは無理だから、せめて地場産品を使用するなど学校給食を充実させたい」と訴えたのを聞いたときにはあやうくアクセル踏み込みそうになりました(笑)。ああ危ない。いや実感がこもっているというか、ここまで割り切ればそれはそれでさわやかかもしれません。これに対して、民主党の男性候補まで教育問題を取り上げて高校無償化を絶賛していたのにはもう少し差異化を考えたほうがいいんじゃないかなあと思っていたらなんだこの人愛教組じゃん。まあ、自治体職員から県議に転じた自民党候補がやたらに地方地方と連呼したり、医師であるみんなの党の候補が医療問題を力説したり、自分のキャリアを踏まえた得意分野で訴えるというのは当然でしょうし、支持母体への利益誘導を訴えるというのも当然なんでしょうが。それにしても、自民党候補が「額に汗し、油にまみれて勤勉に働くのが日本人らしさ」(表現は相当違ってると思います、すみません)とか言っていてそんなこと言われても私困るんですが。日本人らしくない日本人ですみません。
今選挙最大のホット・イシューであろう消費税増税については、民主党候補も自民党候補も概ねダンマリを決め込んだのはいいとは申し上げませんがまあ順当な展開でしょう。在日米軍が不要と信じているカルトな人たちの脳内では増税も不要になるというのもいいとは申し上げませんがやはり順当ではあるでしょう。困ったのはみんなの党の候補者で、増税が必要ならするけれどその前にやるべきことがある、議員定数の削減とか天下り法人への10兆円(?)の見直しとかだ、と言っているわけですが、国債の元利払いが年20兆円以上という状況の中で議員定数を削減していくら効くんですか。まあ「私たち議員や公務員が負担しないのに国民のみなさんに負担をお願いするわけにはいきません」という精神論らしいんですが、じゃあ議員や公務員は消費税払ってないんですか。早く増税すればするほど最終的な負担は軽く済むことは自明なわけで、もはや順序を云々している場合ではなく、増税も歳出削減も並行して取り組まなければならない状況だと思うんですけどね。もちろんその中で議員定数がヘチマとか天下り法人が滑った転んだという議論も必要ならすればいいわけで。みんなの党は今後現実に政権運営に関与する可能性もけっこうある(と思う)んですから、しっかりしてくださいよホントに…。政見放送とは関係ありませんが、それに対して「不況期に増税するのは逆噴射」という国民新党とかの主張はもっともだと思います。まあ、公共事業をジャブジャブやれ(ということだと思うのですが結局)という国民新党の主張も持続可能じゃないよなあとは思いますが…。
ということで、私がいちばん申し上げたいのはみなさん雇用問題をお忘れなくということで、実際愛知県の有効求人倍率はいま0.6倍そこそこというところで、今回の不況での下落幅はたぶん全国一じゃないかと思う(ウラをとっていないので自信なし)のですが、それにしてはみなさん言及が少ない。もちろん一言くらいは言ってはいたと思いますが、記憶に残るような具体的は話は出ていなかったように思います*1。まあ限られた時間内ですから当然優先順位はあり、これがもはや政見として述べる必要もないくらいの問題だというところまで情勢が改善していることの反映であればそれは喜ばしいわけではありますが、しかし現実にはそんな陽気でもないでしょう。ことによると雇用問題を訴えても票にならないという判断が働いているのかもしれず、だとするとこれは困ったことだと思いますが…。
なお余談ながら女性候補者の職歴がシンクタンク研究員、医師、主婦、保育士となっているのは、結局のところ日本では女性が企業人としてあまり活用されてこなかった歴史の反映なのだろうなあとも思いましたが、まあ男性でもビジネスマンが政治家に転身することはそれほど多くはないか…。
ということで少しのはずの前振りがダラダラと長くなってしまいましたが、本論に入りますと昨日の行きがかり上自民党マニフェストも見てみたいと思います。こちらはなかなか力の入った長文になっていて、長いからといって具体的とは限らないわけですが、まあ民主党よりは具体的です。選挙後に困らないようにという配慮も感じられ、このあたりは手慣れたものなのでしょうか。
それでは雇用政策の部分を見ていきたいと思いますが、ここに至るまでも、成長・経済活性化を通じて良好な雇用を増やすという方向性は随所でしめされています。

30 個人の自助努力を補助する雇用対策
 国民が後年の憂いなく、前を向くためにはセーフティーネットの再構築が欠かせません。「受動的な安全網」との考え方から転換し、個人ごとの自助努力を補助する「能動的な雇用対策」を自治体・企業・NGOと連携してきめ細かく展開します。企業における雇用機会が大きく変化する中で、仮に失業しても、給与水準を維持しながら、着実かつ速やかに、再就職することが可能な「トランポリン型社会」を構築します。
http://www.jimin.jp/jimin/kouyaku/22_sensan/pdf/j_file2010.doc、以下同じ

能動的な安全網、というのは不勉強にして見慣れない用語ですが、まあ就労促進的な政策という方向性は望ましいと思います。それにしても、「失業しても、給与水準を維持しながら、着実かつ速やかに、再就職する」というのは無理なご注文というかかなり高いハードルと申せましょう。まあ、成長産業を育成し、そこで人手不足を発生させて労働条件を上昇させ、失業者にそこで必要なスキルを修得させれば「給与水準を維持しながら」転職させることも可能かもしれません。同一職種・業界での転職となると、企業特殊的熟練が剥落する分はどうしても賃金水準も下がらざるを得ないわけであって、それでも賃金水準が維持されるのは業界が相当程度の好況で人手不足の時に限られ、そういう時にはそもそも失業は出にくいわけで、やはり賃金水準を維持しながら転職するとなると職種転換をともなわざるを得ないように思われます。
なおリンク先がWordファイルになっているのはMicrosoft Wordユーザでない人には不親切ですが、同じページからリンクしているpdfファイルがなぜかコピペできない設定になっているからです。どうしてそんなことをするのだろう、マニフェストがWeb上(に限らず)で転載されてさまざまな意見が付されることに否定的なのですかあなたがたは責任ある政党がそんなことでいいんですかと小一時間(ry しかもWordファイルのほうはコピペ可能だったのでますます意味不明。ということでコピペ可能なほうにリンクしてみただけで他意はありません。

31 就職、転職をしやすい環境の整備
 職能別検定制度の充実とジョブカードの円滑な活用を通じ、職業訓練や職業能力開発などを活かし、就業につながるマッチングシステムを確立します。
 また、労働者派遣制度の活用によるスキルアップやキャリア形成を行うなど再就職、転職支援の制度や仕組みを設けることにより、再チャレンジや成長産業への円滑な人材シフトを促進し、正規雇用の維持、拡大を図ります。 
 労働者保護に主眼をおいて、非正規労働者の処遇を改善します。

うーん、職能別検定制度にはあまり期待しないほうがよろしいかと。法定で有資格者の必置規制があるとかいうものならともかく、そうでない場合は就労を促進する効果は限定的ではないかと思います。それはそれとして、与党がお粗末な規制法案を出しているのに対抗したのでしょうが、「労働者派遣制度の活用によるスキルアップやキャリア形成」とはずいぶん思い切って踏み込んだものですねぇ。ただこちらが望ましい方向性であることは間違いありません。なにより派遣労働を「原則外」の日蔭者ではなく、キャリア開発が可能な働き方として市民権付与しているのが好ましい。で、スキルアップやキャリア形成のためにはなにより勤続の長期化、期間上限規制の撤廃が必要だ…というのはこのブログでも繰り返し書いてきたことです。「格差是正」ではなく「処遇を改善」としているのもよろしい。まあ重要なのは方法論なのではありますが。その記述は「労働者保護に主眼をおいて」しかありませんが、まあ先々の自由度を考えたのでしょうか。

32 雇用力強化労働法制の充実
 「雇用」は国民生活の基盤であり、その安定確保は国の最重要課題であります。一方、派遣切りなど、解雇が行われた際、全ての責任を企業に負わせることも問題であり、政府と企業が一体となった労働環境を整備しなければなりません。特に、「解雇規制」を緩和すると同時に、企業における「柔軟な経営」を行える環境を整備するなど、企業の持続による「雇用の安定」につなげます。また、国としては、「同一労働・同一賃金」「社会保障の充実」「労働環境の法整備」を前提に、失業対策として、生活の安定が保証される「手厚い失業給付」「充実した職業訓練プログラム」の再構築など、強力なセーフティーネットを構築します。

「雇用力強化労働法制」というのもまたまた見慣れぬ用語ですが、前段の経済・産業政策のところで「雇用力」が頻出していますので、それを強化するような労働法制に、ということでしょう。「「解雇規制」を緩和すると同時に、企業における「柔軟な経営」を行える環境を整備するなど、企業の持続による「雇用の安定」につなげます。」というのはおや、という感じもありますが、「解雇規制の緩和」が本ブログでもたびたび書いている「雇用形態の多様化」、すなわち契約時に退職事由を事前に規定することを(疑問の余地なく)可能にすることを通じて実行されるのであれば、それは望ましい方向だと思います。この文章ではそこまでは読み取れないわけではありますが、しかしそれ以外の方法では「「解雇規制」を緩和すると同時に、企業における「柔軟な経営」を行える環境を整備するなど、企業の持続による「雇用の安定」につなげます。」とは参らないのではないかとも思うわけで。しかしなにかなあ、これは不採算分野からの撤退などの際の解雇規制を緩和して、残った部分の雇用の安定につなげるという話なのかなあ。だとすると不採算分野の従業員はどうしてくれるんだということになるでしょうが。

33 雇用対策の抜本的強化
 雇用の防衛に向け、雇用対策を抜本的に強化するべく、雇用調整助成金の要件緩和のみならず、雇用創出に向けての地域発の実証事業や雇用拡大型制度改革に着手し、就労動機付けの強化、トライアル雇用の拡充(雇用「創出」助成金)、能力開発を行う派遣会社の支援等、必要な調整費用を支出します。さらに、職業訓練(研修)後のスムーズな就業のための再就職バウチャーや「企業内職業訓練支援制度」(仮称)を導入します。

職業訓練(研修)後のスムーズな就業のための再就職バウチャー」とは何者でしょうか?訓練期間中の生活保障給付に加えて、訓練後の求職期間中の生活費も給付しようということなのかなあ。でもそれならキャッシュで渡せばいいわけで、「バウチャー」にする理由がない、というかどう設計するかによりますが恐ろしく不便なものになりそうな。

34 新卒者就職対策の実施
 新卒者の就職状況が厳しい中、新卒者の100%就職を目指して、新卒者をトライアル雇用する企業へ3年間補助金を支給するトライアル雇用制度の創設など、新卒者の雇用の受け皿の整備を促進します。

まあ現在は確かに厳しいわけですが、景気が回復してくれば新卒採用は真っ先に改善してくるでしょうから、とりわけこれについては適切な経済政策に注力していただくことが重要かと思います。そうした中であえて具体策を挙げるとすればトライアル雇用の拡大になるのでしょうか。3年というのはかなり長い感じはしますが、これは受け皿企業によるだろうと思います。リクルートソニーで3年務めた人なら、仮にリクルートソニーで正社員になれなかったとしても労働市場で高く評価されそうです。逆に、正社員にするつもりはハナからないけれど、3年単位で新卒者を入れ替えて補助金だけ貰うような不届き者もいそうではありますが、それでも3年間の職歴はできますし、就職できないよりはマシだともいえるかもしれません。

35 今後10年間で雇用者所得の5割増を実現
 持続可能な安定した社会保障を維持し、活力ある社会をつくるために、あらゆる成長戦略を実行して、今後10年間で雇用者所得の5割増を実現します。

えーとこれは名目なんでしょうか実質なんでしょうか。書いてないということは当然実質だという前提なのかもしれませんが、しかし本当にやる気があるのかと小一時間(ry 衆院選のときの公約はたしか10年間で100万円の手取り増だったと思いますが、あれとの整合性はどうなっているのでしょう?直観的にはかなり上積みしているように思いますが…。10年間かけるにしても、それでも年率4%くらいずつ伸ばしていかなければいけないわけで、本当に大丈夫なんでしょうか?というか、このマニフェストの雇用対策はどれも経済成長による雇用増の実現が重要なわけですが、いっぽうで消費税を10%に上げるという話もあるわけで、かなり困難な運営が必要になりそうです。

*1:まあ、当然ながら候補者(というか所属政党)によって聞き方の集中度にも濃淡があります(許されますよね?許してください)ので、まあ言っていた人もいたかもしれませんが。