地元・名古屋大学での開催ということもあり、参加してまいりました。春秋2回開催されるにもかかわらず、2007年秋の115回大会以来のごぶさたとなっておりました。
今回は「日本労働法学会創立60周年記念シンポジウム」ということで、韓・台・中の研究者が登壇して大シンポ「東アジアにおける労働紛争処理システムの現状と課題」が行われました。また、それに先立って個別報告が3本行われました。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jlla/contents-taikai/119taikai.html
内容については日本労働法学会のサイトにレジュメが掲載されているのでご参照いただくとして、感想を少し書きますと、個別報告はどれも面白そうだったのですが、大阪経法大の本庄淳志先生の「労働市場における労働者派遣法の現代的役割−契約自由と法規制の相克をめぐる日本・オランダ・ドイツの比較法的分析」を聴講しました。座席がほぼ埋まる盛況でありました。わが国に対する含意については必ずしも同意とはまいらなかったのですが、オランダとドイツの現状についての情報は興味深いものでした(hamachan先生がドイツでの実態について発言され、興味深いやりとりがありました)。
驚いたのは、質疑の冒頭でたいへん高名な某先生が発言を求められ、わが国では派遣労働が雇用の破壊をもたらしている等々の持論を述べられたことで、いやなにが驚いたかというと気付かぬうちに私の通路をはさんだ隣席に座っておられたからで、いやあれにはたまげました。先生は当然私のことなどはご存知ないわけですが、しかし「大企業の正社員が年収800万円の一方で、同じ仕事をしている派遣社員の年収は200万円」などとご発言されているのを聞いて、隣席でそんな正社員と派遣社員が本当にいるのなら連れてきて見せてほしいなあとか、それを言うなら派遣社員が年収800万円貰って辞令一枚で5年間インドに駐在するのかなあとか、いや当然おくびにも出しませんが、そんなつまらないことをつらつらと思っておりました。なかなか噛み合いにくい質問に対して本庄先生と司会の大内伸哉先生がていねいに応答しておられたのが印象的でした。
大シンポについては、各国とも個別労使紛争が増加する中でそれぞれに苦心しており、そのヴィヴィッドな実情が報告されて興味深いものがありました。各国それぞれに独自色があり、日本にはない制度なども紹介されました*1が、率直なところ私の感想は「やはり日本はそれなりによくやっているよねえ」という、議論にはあまり資さないもので申し訳ありません(笑)。総括報告をされた野田進先生はわが国の労使紛争が他国に較べて非常に少ないのは膨大な数の労働者が制度の不備のせいで泣き寝入りを余儀なくされているからだといったような意味のことを言っておられましたが、私としてはそれは社内や職場レベルでの苦情処理がそれなりにうまくなされているということではないのかと思うわけで、いやもちろんとんでもないご無体に対して泣き寝入りしているひどい例も多々あろうとは思うのですが。あと、野田先生はわが国の行政の苦情処理機関が重複していることについて苦言を呈しておられましたが、しかし苦情をより多くすくい上げるためには窓口を増やすことも大切ではないでしょうか。民間企業では、苦情の外部流出を防ぐべく、社内に多種多様な相談窓口を設けて、どれでもいいから相談しやすいところに相談してください、という対応をとっている例も少なくないようです。まあ、事業仕分けのご時世に、同じようなものがいくつもあるのはいかがなものか、というご意見はごもっともなのですが。ただ、大切なのは相談に対して適切な対応ができるかどうかであって、そういう意味では窓口はたくさんあっても、そこから誘導する先は一つにしておくという方法が効率的なのかもしれないな、とか考えていたのでありました。