鳩山政権100日

またまた居酒屋政談で申し訳ないのですが、本日で鳩山内閣が発足100日を迎えたということで、新聞各紙が社説でこれを取り上げています。日経新聞によれば「米政界には政権発足後100日間程度を「ハネムーン」と呼び、メディアや議会などが批判を控える慣習がある」のだそうですが(本日付朝刊)、さしずめ日経のこの社説はハネムーン後の「宣戦布告」というところでしょうか。

社説 自ら信頼を傷つけた鳩山首相の100日(12/24)

 鳩山内閣が24日で発足から100日目を迎えた。政権交代への大きな期待を背負っての出発だったが、現実は鳩山由紀夫首相の指導力不足による迷走ぶりが目立っている。行政の効率化などに向けた取り組みはなお不十分であり、とても合格点はつけられない。

鳩山内閣が初めて取り組んだ来年度の予算編成や税制改正で、十分な成果があがっているとは言い難い。予算の使途を公開の場で吟味する「事業仕分け」を導入したものの、削減規模は衆院選で掲げた約7兆円に遠く及ばなかった。

 景気の一段の落ち込みを防ぐためには予算の精査と並行し、メリハリをつけた経済対策が必要となった。だが首相や菅直人副総理・国家戦略相が予算編成や税制改正で先頭に立って指示をとばすような場面は見られず、経済財政政策の司令塔が誰なのかはいまだにはっきりしない。

 政権交代があれば、国政にある程度の混乱が生じるのはやむを得ない面もある。しかし重要な政策判断で迷走や議論の停滞が目立つのは、詰まるところ首相が十分に指導力を発揮していないからではないか。

 なかでも深刻なのは、外交や安全保障をめぐる基軸が定まっていない点である。

 鳩山内閣はインド洋での給油活動を来年1月の期限切れで中止する。アフガニスタン復興への資金援助は大幅に上積みする方針だが、海外の評価が高い人的貢献策の打ち切りは国際的なテロ掃討作戦からの離脱と受け取られかねない。

 沖縄県の米軍普天間基地宜野湾市)の移設問題をめぐる政府内の対応ぶりは危機的でさえある。名護市辺野古地区への移設という日米合意の見直しで揺れ続けた揚げ句、結論を来年に先送りした。

 国際情勢を踏まえた政策の見直しは主体的に取り組めばよい。しかし総合的な安全保障の戦略もないまま日米合意の撤回に動けば、長年培ってきた同盟関係を危険にさらすことになる。

 鳩山内閣の歩みを振り返ると、連立を組む社民、国民新両党の主張に振り回される場面が目立った。与党の緊密な連携は大事だが、民主党の基本政策をゆがめてしまっては本末転倒である。

 来年夏の参院選をにらんで与野党の駆け引きが強まるのは避けられないが、疑惑の解明や政策論争から逃げていては政治の停滞につながるだけだ。それでは鳩山内閣への期待も失望に変わってしまう。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20091223AS1K2200322122009.html

まあ、おおむねそのとおりと申し上げざるを得ないでしょう。
これに対し、朝日は2日フライングした22日の社説でこれを取り上げ、タイトルを「100日迎える鳩山政権―いら立ちと変革の期待と」するなど、鳩山首相にかなり同情的です。「民主党政権有権者が総選挙を通じ、じかに名指しした政権であ」り、「有権者の多くは自分で選んだ責任を自覚しているに違いない。首相の実行力不足は歯がゆいが、民主党政権を取りかえなければとまでは考えない。」と述べています。さらに、マニフェストについては「「国民との契約」であり、次の総選挙までの最長4年間、政権党を基本的に縛ることになる。」と、見直しを許さない考えを示し、現状については「選挙と国会に専念するはずだった小沢一郎民主党幹事長が政策でも発言権を増すにつれ、ほごと化しつつある。」と、すべては小沢一郎のせいであると言わんばかりです。ま、朝日らしいといえば朝日らしい社説と申せましょうか。
毎日はといえば、「鳩山内閣100日 政治主導の足元固めよ」と銘打ち、「低下傾向とはいえ、支持率55%はなお比較的高い水準だ。国民の多くには、政権選択で自らが投票し鳩山内閣を生み出したという、参加意識があるのではないか。政治の変化を期待する底流に変化はないはずだ。」「首相はマニフェストの原則を軽んじず、さまざまな課題について国民に語りかけ、理解を得る必要がある。自らが政策実現の気概と覚悟を示すことが今、何よりも肝心である。」と、これまた首相には好意的で、朝日以上に悪いのは小沢一郎という論調になっています。
読売は「100日」を直接引き合いに出してはいませんが、23日の社説で予算・税制を論じ、タイトルもずばり「政権公約へのこだわり捨てよ」と、マニフェストの見直しを強く求めています。
まあ、小沢一郎がヘチマとか司令塔が滑った転んだとかいう話もたしかにあるのでしょう。しかし、私は鳩山政権のこの惨状はマニフェストに囚われ縛られていることに根本的な原因があるように思われます。このマニフェスト自体が、選挙目当てに票になりそうな政策を現実や実現可能性、整合性を無視して並べ立てたものというのが実際のところなのでしょうから、それが破綻するのは当たり前すぎるほど当たり前のことです。そもそも、朝日や毎日は「有権者の選択」「政治の変化」を強調しますが、なにも有権者マニフェストを全部読んで、すべてに同意したというわけでもないでしょう。日経は「月末の衆院選での民主党圧勝の原動力は政治と官僚のもたれ合いを断ち切り、政治システムを時代に合った形に作り替えてほしいという有権者の意識だったのではないか。」と述べていて、こちらのほうが実態に近いと思われますが、大半の有権者はそれすらなく、閣僚が失言を繰り返したり、その閣僚を首相がかばいだてしたり、首相が漢字を読み間違えたり、財務省が記者会見で居眠りをしたり、解散するすると言いながら政権に恋々として任期満了寸前まで負け戦をひたすら先送りしたりした前政権の醜態に対して「とにかくこいつらではダメだ」と、単に「懲らしめる」ために民主党に票を投じたという人も相当割合にのぼるでしょう。実際、個別政策になれば有権者の中にも反対意見を持つ人はかなりいるはずで、政権がマニフェストを「国民との契約」などと称してそれに固執することは、大半の国民にとってはいい迷惑であり、政権の自己満足に過ぎないと言うよりありません。
「政権発足後100日間程度…メディアや議会などが批判を控える」という期間は、新政権が選挙前に掲げた公約について「選挙前は知らないことがたくさんあったのでああいう公約を掲げましたが、現実に政権についてみて初めてわかったことがいろいろあったので、公約を修正させてください。ごめんなさい」とやって、マスコミや野党に「うんうんそれは仕方ないね、がんばってね」と大目に見てもらうために費やすべき期間なのではないかと思います(まあ、野党はそうも言えず、責任を追及するでしょうが)。現政権はこの期間をただただマニフェストを突っ張り続けることに費やし、それが過ぎる頃になっていよいよどうにも辻褄が合わなくなって困り果てているわけですからお話になりません。
お隣の韓国では、李明博(イ・ミョンバク)大統領が、新首都建設計画の撤回を表明し、国民に謝罪したそうです。韓国・中央日報紙の日本語サイトから。

李明博(イ・ミョンバク)大統領が(11月)27日夜、テレビで生中継された「特別生放送・大統領との対話」に出演し、過去の世宗市(セジョンシ)関連発言について謝罪した。 李大統領は07年大統領選挙当時の「世宗市原案推進」発言について、「長く政治をしてきたわけではないため、遊説をする時、最初はあいまいに話していたが、選挙日が近づくにつれて言葉が変わってきた」と述べた。 また「すでに決定したことなので原案通り進めなければいけないと明確に話したのも事実だ。 いま考えれば恥ずかしく後悔している」と述べた。 続いて李大統領は「私がこの案を変えることが国家的にも道民にも助けになるとしても、混乱が発生し社会に葛藤が起きたことについて本当に申し訳なく思う」と謝罪した。

さらに「私は政治的に楽になろうと、将来の国家の良くない点をそのまま放置することはできない」とし「遠い将来ではなく次の任期で、私は歴史から堂々と言行できなかったという声を聞くことになるだろう」と世宗市修正の背景を説明した。 李大統領は「私が少し非難を受け、政治的な損失を出しても修正する必要がある」と…明らかにした。

李大統領はこの日、来年度経済成長に関し「5%前後になるだろう」と予想した。 4大河川整備事業に関しては「その予算を福祉に使えというのは一言でいってポピュリズムだ」と述べた。…

http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=123312&servcode=200§code=200

「選挙日が近づくにつれて言葉が変わってきた」と遠回しに書かれていますが、要するに選挙目当て、票目当てだったことを大統領自ら認めたということでしょう。100日を過ぎていても実現できない公約は撤回するのが正論であって、そういう公約をしたこと(あるいは李大統領の他の問題点)はともかく、非難を受けても国益のために撤回するという姿勢自体はそれなりに立派な態度ではないかと思います(というか、それが当然だといわれればそのとおりではあるのですが)。
民主党も、追い込まれてなしくずしにマニフェストを見直すのではなく、「マニフェスト見直しプロジェクト」を作って、政策の実現性や財源、相互の整合性や不足しているとされている「成長戦略」の追加なども考慮して、全体的に見直した方がいいのではないでしょうか。まあ、参議院選挙までは無理かな…。参議院単独過半数を確保してからの取り組みに期待しますか。
ちなみに、日経、朝日、毎日がともに批判している米軍基地問題に対する政権の対応ですが、きのうの日経にこんなキツイ記事が載っていました。

 米政府が沖縄県普天間基地の移設問題をめぐる鳩山由紀夫首相の対応に不信感を強めている。クリントン国務長官は21日、国務省藤崎一郎駐米大使を呼び出し、現行の合意履行を求める米政府の立場に変更はないと伝達。新たな移設先を探す日本政府の方針に理解を得られたと説明した首相に異例の形で警告した。日米同盟を揺るがしかねない事態にもかかわらず鳩山内閣の危機意識は薄く、打開への道筋は見えない。鳩山首相はもはや信用できない−−。藤崎大使を突然呼び出すというクリントン長官の異例の対応を引き起こしたのは、オバマ政権のこうした思いだ。コペンハーゲンでの会話を巡り、クリントン長官の意思に反して「十分に理解していただいた」と紹介した鳩山発言は米政府には許し難い行動。日米摩擦は普天間問題の域を越え、鳩山首相の事実上の不信任へと発展した。

 米政府は11月の日米首脳会談での合意事項を鳩山首相が翌日に「大統領はそう思いたいのだろうが」と覆した件で一度煮え湯をのまされている。「理解していただいた」発言は米政府からみれば完全な「でっち上げ」。それへの抗議は鳩山首相を「うそつき」と断定したに等しい。
(平成21年12月23日付日本経済新聞朝刊から)

相手の発言を意図的に曲解することが外交交渉上必要な場面というのもひょっとしたらあるのかもしれません。内政上の事情でやむにやまれず、ということもあるのかもしれません。まあ、国際社会で尊敬されたいとか信頼されたいとか思っているのであればおよそ得策ではないでしょうが(鳩山首相は尊敬も信頼もされなくていいと考えているのかもしれませんが、それでは国民が迷惑なわけで)。というか、およそ「大国」らしい振る舞いではありませんし、ましてやそれが友好国、同盟国に対するものだというのでは何をかいわんや。
もし、本気で「常時駐留なき日米安保」や「自主防衛」を考えているのであれば、どうせすぐにできるわけでもなく(長期的にもできない*1でしょうが)、現状を根本的に変更するわけですから、当面の日米合意は粛々と実行しつつ、並行して時間をかけて(当然時間はかかるでしょう)まずは国内での検討から始める、というのが常識的で、現在の日米合意を止める必要もなければ理由もありません。
これ(普天間基地の県外移設)はそもそもマニフェストにすら書いてないわけで、ひとえに沖縄の票欲しさに現地で軽率な演説をしたことのツケが回っているわけです。そろそろ、「マニフェストには入れなかったが、『選挙日が近づくにつれて言葉が変わってきた』」と謝罪して鉾をおさめ、「日米合意は予定どおり進めるが、並行して国防のあり方について広く国民的な議論を深める」くらいでまとめれば、それなりに格好はつくと思うのですが。

*1:狭い海峡を隔てたすぐ隣には約2千万の国民の大半が飢えている国があって、わが国を敵視する政策をとり、わが国のほぼ全土を射程に入れたミサイルを装備していているだけでなく、核武装も着々と進めているという状況では、冷静に考えると「自主防衛」のためには国軍の編成・強化だけでなく核武装も議論する必要があるでしょう。議論としてはそれが正論との意見もあり得るでしょうが、現実的であるとは思えません。