松下プラズマ・ディスプレイ事件

きょう、最高裁判決が出ました。まだ判決文を読んではいないのですが、報道をみるかぎり結論としては全面的に高裁判決を破棄し、地裁判決を支持するものとなったようです。妥当な判断と申せましょう。YOMIURI ONLINE関西発から。

偽装請負だが雇用契約ない」 最高裁、地位確認を棄却…パナソニック子会社逆転勝訴

 パナソニックの子会社「パナソニックプラズマディスプレイ」(大阪府)の茨木工場で働いていた元請負会社社員の吉岡力さん(35)が「偽装請負の状態で働かされた」として、プラズマ社に従業員としての地位確認などを求めた訴訟の上告審判決が18日、最高裁第2小法廷で開かれた。中川了滋裁判長は、吉岡さんに従業員としての地位を認めた2審・大阪高裁判決を破棄、地位確認や未払い賃金の請求を棄却した。

 一方、吉岡さんを不良品の修復作業に従事させたり、半年間で雇い止めをしたりしたことについては、吉岡さんが労働局に偽装請負を告発したことに対する報復だとして、慰謝料90万円の支払いを命じた。

 判決によると、吉岡さんは請負会社社員として2004年1月から同工場で勤務したが、05年5月、大阪労働局に「勤務実態は請負ではなく派遣で、違法だ」と告発。その後、半年間の期間工として直接雇用されたが、1人だけの職場で働かされ、06年1月、期間満了を理由に職を失った。

 2審は「作業はプラズマ社が直接指示しており、雇用契約が成立していた」と認定。最高裁判決は、吉岡さんの勤務実態を違法な偽装請負だとしたものの、「プラズマ社側は採用や給与の決定にかかわっておらず、暗黙のうちに雇用契約が成立していたとはいえない」と判断した。

 「労働者派遣法の限界を示した判決。早期に改正案を成立させる必要がある」。判決後の記者会見で、原告代理人の村田浩治弁護士は力を込めた。

 現行の労働者派遣法では、偽装請負などの違法な派遣が発覚しても、派遣先の会社に雇用を義務づけてはいない。同法は現在、改正案が審議されている。製造業派遣などの原則禁止とともに焦点となっているのが、違法派遣があった場合に、派遣先と派遣労働者との間に雇用契約があるとみなす「直接雇用みなし規定」の創設だ。厚生労働相の諮問機関・労働政策審議会の部会で18日に示された厚労省案の中に盛り込まれた。この規定が成立すれば、最高裁判決では退けられた派遣先との雇用契約が認められるようになる。
(2009年12月19日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/eco/news/20091219-OYO8T00218.htm

もともと、高裁判決が「結論ありき」で、その結論を導き出すためにかなりアクロバティックな論理を繰り出したという印象が強いもので、その無理筋については各所の判例評釈で指摘されていました。それに対して最高裁判決はいたって常識的な解釈に戻ったということだろうと思います。
そもそも雇用関係のないところに雇用関係を生じさせようとすれば、それは新たな立法が必要にならざるを得ないわけで、原告代理人が「早期に改正案を成立させる必要がある」と述べたのはその限りでもっともな話です。実際、労働政策審議会需給部会で派遣法改正の議論が進んでいますが、政権交代もあってみなし雇用規定の導入も現実味を帯びてきており、今後の推移が注目されます。現実にそうした法律ができれば、企業としてもそれなりに対応するでしょう。
私としては、この判決がパワハラ?の慰謝料として90万円を認めたことに注目しています。もちろん、これはあくまでいわゆる「偽装請負」を内部告発した後の扱いに対する慰謝料ではあるわけですが、しかし私はこれは裁判所が「金銭解決」の方向性を提起したものではないかとも思えるからです(まあ、違うのでしょうが)。こうした類の紛争については、いかに法違反が存在したにせよ当事者の意思とはまったく異なる効果を発生せしめることはやはり理不尽の感は否めず、損害賠償的な発想での金銭解決が望ましいのではないかと思います。
ちなみに、松下プラズマディスプレイ社は、請負はやめて有期の直接雇用に切り替えているようです。
http://panasonic.co.jp/avc/ppd/jobs/period/