メイテック、来春の採用ゼロに

週末の日経新聞に、技術者派遣大手のメイテックが来年の採用をゼロにするとの記事が掲載されていました。

メイテック、来春の新卒採用ゼロに 技術者派遣の需要低迷

 技術者派遣最大手のメイテックは2010年春入社の新卒採用を見送る。新卒採用をゼロにするのは1970年代後半に定期的な採用を開始して以来初めてという。景気低迷でメーカーで設計や開発を担当する派遣技術者の需要が激減しており、改善の兆しが見えていないため。
 メイテックは例年、数百人単位で派遣技術者を採用しており、今春も339人が入社した。(14日 13:40)
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20091115AT1D1303W13112009.html

メイテックの派遣技術者はほとんどがメイテックの正社員で、仕事がないときは研修などを行っているそうです。メイテックといえば立派な研修施設もあり、また労組とタイアップしたキャリア・ディヴェロップメント・プログラムを実施していることでも知られているなど、人材育成を重視する企業という印象がありますが、さすがにこれだけ派遣社員の仕事が減ってくると新規採用も困難になるということでしょうか。メイテックは前回の雇用調整期には1999〜2000年頃にレイオフや希望退職を行ったことがありますので、今後の動向が懸念されます。
さて、前回の雇用調整期には名だたる有力企業が次々と「採用ゼロ」を打ち出し、実際にそれに近い採用しか行わなかったわけですが、さすがにこれは弊害も大きく、今回は有力企業の「採用ゼロ」は前回ほどには見受けられません。もっとも、採用ゼロの企業が増えそうなことも間違いないようで、たとえば帝国データバンクが今年3月に発表した「2009年度の雇用動向に関する企業の意識調査」結果(http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/keiki_w0902.pdf)をみると、全体の45.3%が「正社員採用の計画なし」と回答しているとのことです。これは昨年の30.4%に較べると約5割増となっていますので、有力企業はそれほどではなくても、産業界全体では採用ゼロもかなり増えているといえるでしょう。
もっとも、この調査は2005年から実施されていて(残念ながら前回の雇用調整期との比較はできないのですが)、近年では採用が絶好調だった2005年においても採用ゼロの企業が21.2%あります。これは調査対象に「2〜3年に1人か2人」正社員を採用するような小規模企業がかなりの割合で含まれているからだと推測されます。また、今回の調査は今年の2月、すなわち製造業の生産調整がどん底だった時期に行われていますので、いま現在同様の調査を行ったらかなり異なる結果が出る可能性もありそうです。
なお、そうした中でも正社員採用を増やすと回答した企業も11.2%あり、帝国データバンクによれば「正社員雇用を増加させる企業からは、「こういう時こそ即戦力の経験者を中途採用するチャンス」(建設、栃木県)や「正社員を募集しても来ない地域でも、現況では補充が可能になった」(食料飲料卸、長崎県)といった意見も多く、地方圏や中小企業などこれまで採用が困難であった企業において、優秀な人材を確保する機会と捉えている」ということだそうです。これをみると、こうした分野(中小企業、地方)でのミスマッチ解消は現下の雇用対策として有効なように思われますが、政府の「緊急雇用対策」はこうした分野にどのくらい目配りしているのかは少し心許ないように感じます。そうでもないのでしょうか。
さて、脱線しますがこの調査結果はなかなか面白い内容を含んでいて、たとえば正社員採用が後退する中で非正社員採用がどうかをみると、予定はない(ゼロ)が58.6%、増加するが3.9%と、意外にも?正社員より非正社員についてより消極的となっています。このあたり、やはり非正社員は人員の柔軟性確保のために活用している(不況期には新規採用しない)こと、将来にわたって企業を支える正社員はそれなりに長い目で確保をはかろうとされていることの反映でしょうか。
ということで、当然ながら非正社員比率も低下しているわけではありますが、「企業からは、「臨時雇用職員を正社員化する予定」(燃料小売、北海道)といった正社員化の進展を挙げている企業」もあったことはあったようです。とはいえ、「「正社員の雇用を守っていくのが最優先」(繊維製品製造、三重県)や「正社員の生産性を高めることによりマンパワーの活用を図る」(飲食料品小売、群馬県)など、仕事量が減少するなか、従来、非正社員に委託していた業務を正社員へシフトすることで非正社員の雇用を抑制するとの声」が大勢ではあるようです。
ということは、正社員比率は高まるわけで、これについても「正社員比率が上する背景としては、「業績低迷により非正社員からの削減となる」(自動車部品卸、北海道)や「稼働率の低下から非正社員を解雇せざるを得ない」(印刷、東京都)など、業績悪化に伴い非正社員を削減したため、相対的に正社員比率が上昇したという声」が聞かれているようですが、他方で「「小規模企業では労使の信頼関係のみが社運を決すると考えられるので、正社員のみ採用したい」(一般貨物自動車運送、大阪府)や「同業他社との競争に勝つためには、この状況下で人材に投資できるかが勝負になる」(配管工事付属品製造、宮城県)といった、現在の経済状況だからこそ将来への布石を打っておくと考える企業も多い」とのことです。人材が競争力の源泉であり、長期にわたって企業を支える正社員については雇用を確保し、人材投資も継続しようという企業の姿勢が伺われる結果といえましょう。
こうした中でメイテックが「採用ゼロ」を打ち出したわけで、正社員の雇用確保・育成継続のための調整しろとして活用される人材派遣業の苦しい立場を示したものといえますが、いっぽうでこれはメイテック自身も正社員確保・人材育成を優先した結果の選択ともいえるでしょう。こうした時期にも派遣労働者の人材育成・キャリア形成を進める派遣会社が良い派遣会社であると市場で評価され、その人材は高値で派遣される、という好循環が実現されることを期待したいものです。