麻生太郎氏の「若者支援基本法」

これまたhamachan先生のブログで、明日おそらく自民党総裁に選出されるであろう麻生太郎氏が、この16日に開催された自由民主党青年局主催の「公開討論会」で発言された内容が紹介されています。若年雇用対策の重要性を説いています。ちょっと長い(というか、改行が多い)ですが引用します。

いまの若いもんは、と、いつの時代でも言うもんです。
わたしは、不良でしたから。
いまどきの若いもんは、と言われ続けていたようなもんです。
だから言うのではありませんが、いまの若い世代が、だらしないなどと思ったためしはない。
ここ数年でいちばん感動した顔は、イラクの勤務から帰ってきた陸上自衛隊の、若者の顔です。
手ごたえのある仕事を立派にこなすと、こんなに晴れ晴れと、いい顔になるものかと感動した。
だから若者には、職の機会を与えてやらにゃいかん。
その職というのも、場当たりではだめなんです。
人間、努力が報われるのには、一年、二年の単位で時間がかかる。
一ヶ月とか、ひどいときには一週間で仕事が変わるようでは、自分に投資する暇がない。
ないから、捨て鉢になる。
「雇われる能力」、エンプロイアビリティー(employability)が、また減っていく。
その悪循環。これは、止める。止めねば日本の将来にかかわる。
若者に、未来の設計ができるだけの機会を与え、希望をもたせること。
そこが、すべての、あらゆることの、出発点なんだと存じます。
子供が生まれない、経済が伸びない。
こういったことの原因を取り除こうと思ったら、若者に投資する「ニューディール」が要るんである。それこそが、21世紀のインフラ投資である。
お約束します。
「若者支援基本法」をこしらえます。
地域ぐるみで、よってたかって、若者たちのエンプロイアビリティーを高めてやる。
それをこの法律でやりたい。
デンマークやイギリスに、実例があります。
働き始めました。一月経った。出てこなくなった。
放っておくと、その若者はまたフリーターになる。
そんなとき、一本の電話がなるんです。
「明日、待ってるよ」
それでふっと、背中が押されて、また復帰する。
こういうことも、やらねばならん。
麻生太郎氏のサイトhttp://www.aso-taro.jp/sousaisen/20080916.pdfから、以下同じ)

選挙演説なので、あまり具体的な議論もできないでしょうが、とりあえず「今の若い奴は」的な議論ではないというところは大いに評価すべきでしょう。
ただ、方向性はいいとしても、具体論としては議論が必要なところは多いように思います。

若者には、職の機会を与えてやらにゃいかん。
その職というのも、場当たりではだめなんです。
人間、努力が報われるのには、一年、二年の単位で時間がかかる。
一ヶ月とか、ひどいときには一週間で仕事が変わるようでは、自分に投資する暇がない。
ないから、捨て鉢になる。
「雇われる能力」、エンプロイアビリティー(employability)が、また減っていく。
その悪循環。これは、止める。止めねば日本の将来にかかわる。

「自分に投資する暇がない。ないから、捨て鉢になる。」ということですが、もちろん自分で自分に投資するということもあります。しかし、現実をみると、働く若者に投資をしているのは若者以上に企業であることには注意が必要でしょう。未熟練の若者を採用し、当初は貢献度以上の賃金を支払いながら、しかも仕事を教えてやる。これはすべて、企業による若者への投資です。こうした投資が行われる良好な雇用機会を増やし、そこで若年が就労することを促進するのが現実的な若年雇用対策と申せましょう。
なお、たしかに「一ヶ月とか、ひどいときには一週間で仕事が変わるようでは」企業による人材投資も行われにくいわけで、将来のある若年がこうした仕事を長期にわたって続けることは望ましくないことは言うまでもありません。ただ、そうした仕事が常に必要とされていることも事実なわけで、これは要するに人材投資が必要な若年にはそれが行われるような仕事を、そうでない仕事はそうでない人に行くようにというマッチングの問題です。日雇派遣や短期雇用を禁止すればすむという話ではありません。

若者に、未来の設計ができるだけの機会を与え、希望をもたせること。
そこが、すべての、あらゆることの、出発点なんだと存じます。
子供が生まれない、経済が伸びない。
こういったことの原因を取り除こうと思ったら、若者に投資する「ニューディール」が要るんである。それこそが、21世紀のインフラ投資である。
お約束します。
「若者支援基本法」をこしらえます。
地域ぐるみで、よってたかって、若者たちのエンプロイアビリティーを高めてやる。
それをこの法律でやりたい。
デンマークやイギリスに、実例があります。

若者の能力開発への投資こそが21世紀のインフラ投資だ、というのはまことにそのとおりでしょう。それを政策的にやろうというのであれば、「若者支援基本法」のようなものも必要でしょう。ただ、地域ぐるみというのが地域の企業を含んでいるのかどうか知りませんが(おそらく、政治的には地場の中小企業などは含まれるのでしょう)、日本では企業の役割を相当重視しなければなかなかうまくいかないのではないかと思います。デンマークはよく引き合いに出されますが、いろいろな事情が日本とは違いすぎますし、イギリスのニューディールもそのまま日本に適合するとは思えません。
繰り返しになりますが、有意義な人材投資が行われる仕事を増やすことが大切であり、それに就くための資質(それほど高度でもなければ希少でもないはずですが)を持つ若年を育成する教育を行うことが大切だろうと思います。正社員は長期的な人材投資が行われやすい雇用形態なので、これを増やすことは非常に重要です。いっぽうですべてを正社員にするわけにはいかないので、非正規雇用であってもそれなりに技能を伸ばし、キャリアを形成していくことができるようなしくみをつくることも大切でしょう。また、上でも書きましたが、それでも技能の伸長に資するところの少ない仕事や働き方はどうしても残るでしょうから、そうした仕事が若年に割り当てられないようにするマッチングの改善も課題だろうと思います。

働き始めました。一月経った。出てこなくなった。
放っておくと、その若者はまたフリーターになる。
そんなとき、一本の電話がなるんです。
「明日、待ってるよ」
それでふっと、背中が押されて、また復帰する。
こういうことも、やらねばならん。

まあ、これはホリスティック支援の例え話というところでしょうから、それはそれでいいのかもしれませんが、それこそ世の中小企業の経営者の悩みはまさにここにあるわけですね。働き始めた。一月経って、出てこなくなる。経営者が電話をかけて「明日、待ってるよ」。それはすでにやっていることでしょう。それで出てくればこんな楽なことはない。現実にはそれでは出てこないことも多いし、一度は出てきても結局辞めてしまうということも多い。もちろん、すべてではないですし、少数かもしれませんが、経営者としては印象に残ります。せっかく就職できたのに、ちょっとした理由で出てこなくなる。せっかく仕事を教えてやったのに、まともに働かないうちに辞めてしまう。当然、中小企業経営者としては「いまの若いもんは」と言いたくもなるでしょう。
もちろん、若年にも言い分はある。職場環境が悪い、賃金が低い。仕事を教えてくれない。面倒をみてもらえない。これらはすべて人事管理の課題で、企業がこうした課題を改善しないことには若年の定着は進まないでしょう。これはこれで政策的支援が必要な分野なのかもしれません。
ということで(どういうことだ?)ここで大胆にも?麻生太郎式「若者支援基本法」がどうなるか、この演説をもとに予想してみましょう。

1.若年の非正規就労を禁止する。
2.若年の正規雇用に対して企業に助成金を支給する。
3.一定の就職活動を行っても正規雇用されなかった若年は自衛隊が採用する。

冗談ですよ、もちろん。