強情

きのうに引き続き「店長に残業代」のフォローです。きのうの日経から、日本マクドナルドの原田社長のインタビュー記事です。相変わらず、店長に残業代を払うつもりはないようです。

 ――店長の残業問題が大きな懸念材料です。人件費負担が増えるとの指摘もありますが。
 「裁判中だから細かくは言えないが、あれ(東京地裁の判決内容)で全部(残業代を)払えということにはならないはずだ。店長の平均年収は七百十六万円と業界トップクラス。うちの給与水準で残業代を払えとなれば、世の中のサービス産業は成り立たない」
 ――セブンイレブンも店長の残業代支払いに動きました。
 「対象となる社員数が違う。社員アンケートも実施しているが、今の待遇は妥当で、残業代の要望はほとんどない。店長は人事管理などで大きな権限を持つ。就業時間にあわせて給料をもらうだけなら成長は止まってしまう」
(平成20年2月26日付日本経済新聞朝刊から)

判決文では店長の平均年収は707万円となっていましたが、どちらが正しいんでしょうかね?それはそれとして、平均が高いから全員残業代を払わなくていいというのは妙な理屈で、全員がこれだけ高いんだから残業代を支払わなくても保護には欠けないだろう、という議論をしてもらわないと困ります。成果主義だかなんだか知りませんが、平均700万円以上といいながら人によっては500万円台ということでは、全員に残業代を払わなくていいとはなかなか言えないでしょう。
また「世の中のサービス産業は成り立たない」というのも、それこそきのうのカルラとか、2月8日のエントリのセブンイレブンのように、残業を付けて残業代を払ってトータルで現状と同じ年収になるようにすればいいわけですから、なにも残業代を払う払わないの問題ではありません。
結局のところ、「店長は人事管理などで大きな権限を持つ。就業時間にあわせて給料をもらうだけなら成長は止まってしまう」、つまり「成果が上がっていないのに、長時間働いたというだけで時間割で賃金を多く支払うのはいやだ」ということなのでしょう。もちろん、この理屈には大いに一理あります。「社員アンケートも実施しているが、今の待遇は妥当で、残業代の要望はほとんどない」というのが本当ならば、なおさらでしょう。とはいえ、「ほとんどない」ということは「少数はある」ということでしょうから、この「少数」から残業代を求められれば支払わなければならないような実態にあることも事実なのでしょう。で、その「少数」が低評価を受けて500万円台の年収にとどめられている人たちと重なるのではないかというのは見やすい理屈です。
ですから、原田氏がどうしても店長に残業代を払いたくないのであれば、この少数をゼロにする努力が必要でしょう。具体的には、全員に少なくとも700万円は保証する、労働時間における拘束性を一定程度以下になるように仕事を見直す、といったことです。そうした改善が行われることを前提に、現行のマクドナルドの制度と並行して、セブンイレブンのような「残業代は払うけれど結果的に年収は同じく700万円程度、評価によってはそれを下回ることもある」という制度も導入し、店長がそのいずれかを選べるようにするというやり方も効果的だと思います(後者を選ぶ店長は、業務管理、労働時間管理などの手腕が劣るとみなして、評価を低くすればよいわけです)。そしてもっとも重要なのは、そういう人物は店長にしないという昇進管理ではなかろうかと思います。
いずれにしても、現行のままで「店長には残業代は払わない」と突っ張るのはご自由ですが、それなりに就労環境の整備改善が行わなければ、突っ張ったところで訴訟には負けるでしょう。この原田氏というお方、「定年は廃止する」と言いつつも、その裏では「定年前でもできない奴はクビにするから定年はなくても問題ない」ということをおっしゃるような方ですので、どうも自分の考えが正しいのだから、間違った法律は守らなくてもいい、という確信犯のようです。リストラの手腕は優れているのかもしれませんが、はたして経営者として適任なのかどうか。