柳沢厚労相、またまた失言?

今度は工場労働者について「時間だけが売り物」と発言して物議をかもしているそうです。

 柳沢伯夫厚生労働相は19日午前の衆院予算委員会で、工場労働を「労働時間だけが売り物」とした労働法制に関する自らの発言について、撤回と議事録からの削除を検討する考えを明らかにした。
 柳沢氏の発言は、15日の参院厚生労働委員会で答弁したもの。柳沢氏は事務職の一部を残業代の支払い対象から外すホワイトカラー・エグゼンプションに関連し、「工場労働というか、ベルトコンベヤーの仕事。もう労働時間だけが売り物ですというようなところでなく働いている方々の現実に着目した労働法制をつくることが課題だ」と述べた。
 この発言について、民主党川内博史氏が19日の衆院予算委で、「現場で一生懸命働いている方に失礼だ」と批判し、柳沢氏自らが議事録からの削除を申し出るよう求めた。
 これに対し、柳沢氏は「全体を見てもらえば誤解が生じるとは思わないが、『だけ』という表現が、ある人々を傷つけるとの指摘なので、(削除が)可能かどうかを相談したい」と述べた。
(平成19年2月19日付産経新聞朝刊から)

 柳沢伯夫厚生労働相は、15日の参院厚生労働委員会で、工場労働を「労働時間だけが売り物です、というようなところ」などと表現していたが、19日の衆院予算委員会で、議事録からの削除を求める考えを表明した。
 川内博史氏(民主)が「現場の努力が製造業の世界進出の原動力だ。時間だけが売り物ではない」と撤回を求めたのに対し、厚労相は「発言全体を見れば誤解が生じるとは思わないが、『だけ』という言葉はある人々を傷つけるのではないか。せっかくの指摘なので相談したい」と述べた。
 これに関連し、共産党市田忠義書記局長は「厚労相の国語力の問題ではなく、人間観が問われている。単なる失言ではない」と批判した。
(平成19年2月20日毎日新聞朝刊から)

柳沢厚労相は「全体をみれば」と述べているそうですが、その全体がわからないのではなんとも言えません。まあ、たしかに「労働時間だけが売り物です」という表現は、他になにも「売り物」がないということで、あたかも「無能」という印象を与えるかもしれませんので、それだけでも「失礼」といえば失礼にあたるでしょう。
ただ、こうした印象は別として、理屈で考えれば「労働時間だけが売り物」というのはそれほどおかしな話ではありません。これは賃金の計算方法の問題であって、賃金の単価とは区別して考える必要があります。
もちろん、工場の現場でも一生懸命働いている人が大半でしょうし、工場労働、コンベヤ作業であっても、その中には非常に高度な熟練技能を要する仕事もありますし、知恵とくふうを集めて生産性向上をはかる人もいるでしょう。こういう仕事の中身については、一生懸命働く人はそうでない人に較べて基本給が高く、熟練技能や創意くふうを発揮する人の基本給は新入社員の初任給よりずっと高い、という「単価」に反映される問題になります。「労働時間が売り物」などといった「計算方法」とは別問題です。
いっぽう、単価が高くても低くても、「長時間働けばその分賃金を多く支払う」というように、賃金を時間割で計算するのであれば、それは「時間の切り売り」であり、すなわち「労働時間が売り物」になっているということになるでしょう。歩合とか役職手当のように割増賃金計算に含まれない賃金を受けていない人は、ほぼ「労働時間だけが売り物」となるでしょう。これは「失礼」であるかもしれませんが、「事実」でもあります。中でも工場労働、特にコンベヤ作業は、こうした時間割計算による賃金の支払いが適当である仕事の典型であると一般的に考えられていますので、柳沢厚労相もそういう意味でこうした発言をしたのだと思われます。逆にいえば、「自分の仕事は時間の切り売りではない」「時間割で賃金が増えるより、単価が上昇することで報われたい」といったような意識を持てる人はホワイトカラー・エグゼンプションになじみやすいといえましょう。
まあ、柳沢厚労相について申し上げれば、おかしなことを言っているわけではないとしても、すでに「機械」で失言して、さらに「健全」でも揚げ足を取られている状況なのですから、普通はもっと言い方に気をつけるのが当然なのではないかと思います。そういう意味では失言でしょうし、こういう不用意な発言をしてしまうというのは、政治家として世の中を渡る上ではかなり損なのではないでしょうか。余計なお世話ですが、そういう本質的でない部分で政策が歪められるのは困ったものです。

  • ところで、共産党などは「生産手段を持たない(奪われた)労働者は、生産手段を保有する資本家に労働力を売る以外にない」といったことを「学習」しているのだと私は思っていました。だとすれば、「労働時間だけしか売り物がない」と言われれば「まさにそのとおり!」と激しく同意しそうなもんだと思うのですが、違うのでしょうかね?