ボラバイト

これまで「キャリアデザインマガジン」の書評をこのブログに転載していますが、考えてみれば「キャリア辞典」だって転載して悪いことはないでしょう。というわけで以下に転載します。いや、最近あれこれあって、ブログがたまって仕方ないので(笑)


ボラバイト


 「ボランティア」と「アルバイト」をつなげて「ボラバイト」なのだそうだ。耳慣れない印象だが、「Yahoo!Japan Volunteer」のサイトで「ボラバイト特集」が掲載されているくらいなので、それなりに実態はあるのだろう。
 いくつかの例をみてみると、基本的には都市部在住の若年者が、地方の農場やペンションなどで住み込みの就労体験をする、というスタイルのもののようだ。ボラバイトを仲介する「有限会社サンカネットワーク」のウェブサイトをみると、ボラバイト代は日給2,000円から4,000円くらいで、ボラバイト先との交通費は自己負担、期間は短期のものもあるが、大半は数週間〜数ヶ月とけっこうな長期だ。食事は自炊というのも多い。
 正直言って通常のアルバイトと区別がつきにくいが、ボラバイト特集に掲載されている同社の山本取締役のインタビューによれば、「都会の若者が経験したことのない仕事を経験することや、地方の人たちとふれあうことを目的として」「お金が第一の目的ではない」というところが、純然たるアルバイトとは違う、ということらしい。とはいえ、世間で「ボランティア」といえば無償・有償にかかわらず(矛盾するようだが、現実には有償のボランティアも多数行われている)、利他的動機にもとづく奉仕というイメージがあると思うので、これが「ボランティアとアルバイトの中間」と言われてもしっくりこないものがある。まあ、日給2,000円で働くのだから奉仕だろうと言われればそんなものかもしれないが…。ちなみに、山本氏は「自然のなかで体を使って働く体験を提供して、若者の元気を取り戻そうと思った」「正直、朝早くて大変な仕事に根をあげて帰ってしまうボラバイターも若干います。/雇い主さん側にも、ボラバイトに来た若者を育てるという「ボランティア」的な気持ちがないと続けられないといえます」などと、しきりに「ボランティア」を強調し、アルバイトと差別化している。
 もっとも、サンカネットワークではボラバイトは「労働」であるとはしていて「労働関係法令を遵守するようご留意下さい」「ご不明な点は、労働基準監督署等にお問い合わせ下さい」などと呼びかけている。とはいえ、ボラバイト代については「最低賃金法に定められた最低賃金を最低基準としていますが、その場合の対価にはボラバイト先から提供される食事と宿泊先も含まれます」ということで日給2,000円でもOKということのようだが、これでセーフかといえばそうでもなく、当然ながら現物給付を行うには労働協約が必要だし、食費・宿泊費をチェックオフするという形を取るにしても、労使協定は必要となる。その他にも、ボラバイトが常時10人以上就労していれば就業規則の作成・届出が必要となるし、ペンションなどでは時間外協定が必要となることも多いだろう。かなり面倒だ。また、「サンカネットワークは、仕事の紹介やあっせんを行うものではありません」ということだが、現実にはボラバイト希望者を会員登録させてボラバイト情報を提供し、ボラバイト先から情報掲載料を受け取るというビジネスモデルになっているので、有料職業紹介の許可を受けておいたほうがよさそうな気がしないでもない(たぶん受けているとは思うが)。
 いずれにしても新しいアイデアなので、最初はそれなりに混乱もあるだろうが、単なる低賃金労働の抜け穴になってしまわないよう、本来の趣旨にそった健全な発展が望まれるところだ。