ジャコービィ『日本の人事部・アメリカの人事部』

日本の人事部・アメリカの人事部―日本企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係

日本の人事部・アメリカの人事部―日本企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係

例によって、「キャリアデザインマガジン」のための書評です。それにしても、企業内における財務と人事の力関係、という視点は私にとっては非常に斬新なものでした。とはいえ、それは私がヒラ社員だからで、財務部長とか人事部長とかいう立場の人だと、こういうのは日本企業でもけっこう切実な問題なのでしょうかねぇ。
ということで以下に転載しておきます。


 日米の大企業の事例研究をもとに、企業における人事部の役割とその位置づけを、企業統治の観点を踏まえて比較検証した本ということになるだろうか。
 この本によれば、日本企業の人事部は米国企業の人事部に較べて役割が大きく、社内の位置づけも高い傾向があるという。これは、人事戦略の面でも企業統治の面でも、日本企業が比較的組織重視指向なのに対し、米国企業はより市場重視指向であることによる。ただし、米国のほうが日本に較べて多様であり、日本企業に近い役割・位置付けの企業もあれば、ごく限られた役割しか持たない企業もある。日本企業は近年市場重視の方向にシフトしているが、米国はさらに急速に市場重視に動いており、結果として日本企業が「改革」に取り組んでいるにもかかわらず、両国の差は拡大しているという。
 この違いは日米間のキャリア形成の違いによるところも大きいだろう。日本企業は、こと正社員については長期雇用のもとに内部育成し、他社にない独自の技術、ノウハウを持つ人材を多数育成することを競争力の源泉としてきた。そのために重要な意味を持つ社内キャリアの形成については、各職場のマネージャーに加えて、人事部が大きな役割を果たしてきた。当然ながらその教育投資は多額なものとなり、したがって一時的な経営不振への対処として人員削減を行うのは得策であるとは考えられてこなかった。企業統治の観点からみても、人事部は財務部と同等程度の社内的地位を有することになろう。
 これに対し、米国企業は多くの場合社内育成には日本企業ほどは注力しないといわれる。外部労働市場からの採用も一般的に行われる。そうなると、採用などの権限は現場の監督者に委ねたほうが効率的になるし、一時的な経営不振下であっても人員削減を実施することは損失にならない。となると、人事部の役割は限られ、社内的地位も財務部を大きく下回ることになるものと思われる。
 著者は日米のいずれが優れているかという点については言及していない。とはいえ、著者は米国の株価下落、M&Aの不調などから、財務部もまた輝きを失っていると指摘し、人事部が影響力を高めていく可能性を指摘している。それを見て、著者はどちらかといえば日本的なあり方にシンパシーを持っているのではないかと推測するのは、さすがに身勝手というものだろうか。