やっぱりおカネじゃないんだね

東北大学の舛岡教授が東芝在籍時に発明したフラッシュメモリの特許について、その対価(の一部)として約10億円の支払を求めていた訴訟が、先週27日に和解で決着しました。和解金は約8700万円とのことで、これが適度な水準なのかどうかは判然としませんが、東芝としては係争している特許だけではなく、舛岡教授の関与したすべての特許の対価としてこれを支払うということですから、若干高い決着であっても後腐れなく終われるということで和解に応じたというところでしょう。
これに対する舛岡教授の心境はどうなのか、興味深いところです。かつて例の中村修二氏は日亜化学との和解にあたって、会社と裁判所への怨嗟を隠そうとしませんでしたが、舛岡教授はどうなのだろうと思っていたところ、今朝の日経新聞に同教授のインタビュー記事が掲載されていました。

 ――対価として少ないという声もある。
 「訴状に記述した請求額や、和解金などの具体的な金額は訴訟代理人にまかせた。算出根拠や審理過程における和解金額の決定手順は代理人からも聞かされていない」
 「東芝在職中の特許に関する報奨金は約600万円。訴訟対象とした最新の特許は2007年で切れることを考慮すれば、退職後の追加の報酬も300万円という見方がある。それに比べて和解金額は30倍近くになった。ただ、金額よりも東芝が発明対価の支払いを認めたこと自体が重要だ」
 ――和解内容が日本の産業界に与える影響をどうみる。
 「会社の利益に結びつく成果を出した研究者に対しては発明対価の支払いだけでなく、経営陣への登用などそれなりの処遇をしてほしいという願いもあった。訴訟を起こしてから、東芝では研究者出身の上席常務が誕生するなど、間接的に影響を与えたと思う」
(平成18年8月1日付日本経済新聞朝刊から)

なるほど、なるほど。「金額よりも東芝が発明対価の支払いを認めたこと自体が重要」というのは、自分の発明は当時の会社の評価以上の価値があったということを認めさせれば金額はいくらでもそれなりに満足だ、ということなのでしょう。要するにおカネが欲しくて訴訟を起こしたということではないわけですね。
しかも、報われ方についても「経営陣への登用などそれなりの処遇をしてほしい」「東芝では研究者出身の上席常務が誕生するなど、間接的に影響を与えた」ということで、つまるところカネではないのですね、もちろん、経営陣に登用されればカネもついてはくるでしょうが、やはり仕事で報われたい、より責任のある、権限の大きい、自分の力を存分に振るえるポジションで報いてほしいとの思いが強いのでしょう。「カネではなく、次の仕事で報いる」という高橋伸夫説はやはり有力なようです。
一連の発明対価訴訟騒ぎで、特許法も改正され、各社とも発明報奨金制度などを整備しましたが、報奨金だけで事足れりとしてしまうと、揉め事は減るかもしれませんが、肝心の発明そのものが停滞してしまう危険性があるのではないでしょうか。