懲戒免職

セクハラ疑惑が報じられている財務省福田淳一事務次官が一昨日辞任を表明しました。順当に行けば今日か来週火曜日の閣議を経て退職が発令されるものと思われます。

  • (4月23日追記)金曜日は安倍首相が訪米中で閣議が開かれませんでしたので退職は明日の閣議以降ということになりました。若干追記しますと、公務員は民間企業(の期間の定めのない労働契約)と異なり労働者が一方的に退職することができない(任命権者による発令が必要)ので、人事院規則では必要以上の人身拘束を避けるため「任命権者は、職員から書面をもって辞職の申出があったときは、特に支障のない限り、これを承認するものとする。」と定めています(人事院規則81-2(職員の任免)51条)。いっぽうで人事院職員局長通知「職員の不祥事に対する厳正な対応について」(平9.1.16職職12)には「懲戒処分に付すことにつき相当の事由があると思料される職員から辞職願が提出された場合には、一旦辞職願を預かり、事実関係を十分把握した上で、懲戒処分に付す等厳正に対処すること」との記載がありますので、懲戒処分が行われるまで退職が発令されない可能性もありそうです。まあ前川氏の前例からして明日には退職が発令されそうではありますが。

福田氏はセクハラをまだ否定しているようなので本当にセクハラがあったのかどうかは断言できませんし(まあ出てきている材料をみるとやったんじゃねえかとは思いますが)、テレビ朝日にも問題がまったくなかったかといえばそうでもないような気もしますが、ここではそれらについて書くつもりはありませんので為念。
ではなにかというと世間の一部で辞任を認めるのはけしからん、退職金の支払われない懲戒免職にせよという意見がけっこうあるようで、まあ気持ちはわかるのですがそう簡単でもなかろうという話です。
まず懲戒処分については根拠規定が必要であるところ国家公務員法82条はこのように定めています。

第八二条 職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

さらに具体的には「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職-68人事院事務総長発)という通知があって、セクハラについてはこう定められています。

(13) セクシュアル・ハラスメント(他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動)
ア 暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をした職員は、免職又は停職とする。
イ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下「わいせつな言辞等の性的な言動」という。)を繰り返した職員は、停職又は減給とする。この場合においてわいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返したことにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したときは、当該職員は免職又は停職とする。
ウ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は、減給又は戒告とする。
(注)処分を行うに際しては、具体的な行為の態様、悪質性等も情状として考慮の上判断するものとする。

実際の懲戒は「基準+情状+均衡」で総合的に判断するものではありますが、まずはこの基準を外形的にあてはめれば「イ」に該当して、懲戒処分を行うとしても停職又は減給ということになります。ちなみに佐川宣寿国税庁長官についてはご自身が非行を認めたので懲戒処分が実施できたわけですが、こちらもこの基準をみるとこう定められていて、

(6) 虚偽報告
事実をねつ造して虚偽の報告を行った職員は、減給又は戒告とする。

したがって処分も減給20%3か月となり、退職金もそれに応じて減額されているはずです。
さて福田氏に戻って、この基準でも「個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得るところ」とされているように情状をどう判断するかが次の話になります。そこで今回のケースを考えてみると、処分を重くする情状は相当にあり、たとえば以下のようなものがあげられそうです。
事務次官(指導者で率先垂範すべき立場)
・記事のとおりであれば、決裁書書き変えが発覚し綱紀粛正すべき時期
・セクハラを否定しており反省がみられない(あくまで本当にやったのなら、の話です)
・公務等に与える影響が大きい
いっぽう、感情的にはなかなか受け入れ難いかもしれませんが軽くする情状というものもあり、まあさすがに事務次官まで上り詰めているわけですから公務における功績というのも相当にあったであろうということも考慮に入れる必要はあるでしょう。
これら情状を総合的に勘案して基準を上回る免職処分とするかどうかは見解が分かれるだろうと思うのですが、私としては残る「均衡」を考えれば免職までは難しかろうとの意見です。申し上げるまでもなく直近の事例として前川喜平元文科事務次官の例があるからで、前川氏の場合はあからさまな国家公務員法違反ですし、再就職(「天下り」)問題はセクハラ同様に世間の関心も高い案件でしたが、それでも処分が行われる前の退職が認められて退職金も支払われています(ちなみに文科省の判断は停職相当でしたが退職後だったので実質的な処分はなんらおこなわれていないはずです。このあたりは以前書いた)。にもかかわらず福田氏を免職とするのはさすがに均衡を失するように私には思われます。
もちろん前川氏佐川氏含めて処分が軽すぎるという議論は別途ありえますし私として特に意見を述べるつもりもありませんが、現実の問題としては前川氏が処分前の退職を認められた以上は福田氏も同様とならざるを得ないというのは、情において納得しがいたいものがあるとしても致し方なかろうと思います。