日本郵政、住居手当を一部廃止へ

意見照会をいただきましたので若干の感想など。詳しいウラ取りはしていないのでややあいまいなところがありますがご容赦ください。

 日本郵政グループが、正社員のうち約5千人の住居手当を今年10月に廃止することがわかった。この手当は正社員にだけ支給されていて、非正社員との待遇格差が縮まることになる。「同一労働同一賃金」を目指す動きは広がりつつあるが、正社員の待遇を下げて格差の是正を図るのは異例だ。
 同グループは日本郵政日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4社でつくる。廃止対象は、原則として転居を伴う転勤のない条件の正社員(約2万人)のうち、住居手当を受け取っている約5千人。毎月の支給額は借家で最大2万7千円、持ち家は購入から5年間に限り6200〜7200円で、廃止で年間最大32万4千円の減収になる。
 廃止のきっかけは、民間の単一労組で国内最大となる日本郵政グループ労働組合(JP労組、組合員数約24万人)の今春闘での要求だ。同グループの社員の半分ほどは非正社員非正社員の待遇改善を図る同一労働同一賃金の機運が高まっているとして、正社員だけに認められている扶養手当や住居手当など五つの手当を非正社員にも支給するよう求めた。
 これに対し、会社側は組合側の考え方に理解を示して「年始勤務手当」については非正社員への支給を認めた。一方で「正社員の労働条件は既得権益ではない」とし、一部の正社員を対象に住居手当の廃止を逆に提案。組合側は反対したが、廃止後も10年間は一部を支給する経過措置を設けることで折り合った。今の支給額の10%を毎年減らしていくという。さらに寒冷地手当なども削減される。
 同一労働同一賃金は、安倍政権が今国会の最重要法案とする働き方改革関連法案に柱の一つとして盛り込まれている。厚生労働省ガイドライン案では、正社員にだけ支給されるケースも多い通勤手当や食事手当といった各種手当の待遇差は認めないとしている。
 政府は非正社員の待遇が、正社員の待遇に引き上げられることを想定。非正社員の賃金を増やして経済成長につなげる狙いもある。ただ、日本郵政グループの今回の判断で、正社員の待遇を下げて対応する企業が広がる可能性がある。
(平成30年4月13日付朝日新聞朝刊)

この案件そのものについては、JP労組といえば全逓の流れを汲む有力労組で組織率も高く、労使で交渉し妥結した結果は尊重されるべきというのが私の感想です(周りがご迷惑という話はあとの方で書きます)。
さて記事では「廃止対象は、原則として転居を伴う転勤のない条件の正社員(約2万人)のうち、住居手当を受け取っている約5千人」となっていますが、これは数年前に人事制度を改定して新設されたコースで、そもそも転勤がなくなるので住居手当による配慮の必要性も低下していたものの従来通りに支給してきたという実情だろうと思われます。
それを契約社員にも、という労組の要求の背景として昨年秋に東京地裁契約社員にも一部手当の支給を求める判決を出したことがあると思われるわけですが(今年に入って大阪地裁でも同様の判決が出ている)、その理由として裁判所はこれら「転居を伴う転勤のない条件の正社員」にも住居手当が支給されていることを指摘していました。私としては基本的には住居手当は長期勤続を前提としたものなので正社員限定というのも合理的ではないかと考えているのですが、この事件については例の「5年無期化」で契約社員が「転居を伴う転勤のない条件の正社員」に転換していくという事情があり、また住居手当は社宅や住宅ローンの利子補給と異なりキャッシュで渡されるものなので、ここをベンチマークとして均衡ある支給をすべきという考え方もありうるかなとも思います(批判的ですが)。いっぽうで年始勤務手当については正月三が日など特別な意味のある日に勤務することに対する配慮なので勤続期間とは無関係であり、均衡ある支給が求められるものと考えます。
いずれにしても、そういう事情もあって経営サイドとしては必要性の低下した「転居を伴う転勤のない条件の正社員」への住居手当を段階的に廃止しようという話になったのだろうと思います。ということはこれは賃金制度の合理化であって、結果的はもちろん格差は縮小しているわけですが記事が主張するように格差是正を意図したものなのかは疑問だと思っていたわけです。
これについてはJ-CASTニュースに続報があって、

日本郵政の人事部は4月13日、J-CASTニュースの取材に対し、格差是正措置であることを否定した。
 「正社員の待遇を下げて、非正社員との格差是正を図る、というような意図は、会社としてありません。住居手当は、転勤の負担のない一般職の方にも、これまでは認めていましたが、社会情勢を考えて必要性があるかと検討した結果、廃止を決めたものです。ボーナスを引き上げており、昨年より正社員の年収は上がります」
今回の春闘で、日本郵政グループ労組からは、格差是正のため住居手当などの5手当を非正社員にも支給するよう求めがあった。結果として、非正社員への年始勤務手当支給については認めることになったが、それは貴重な戦力の非正社員に仕事のモチベーションを上げてもらうためだという。人事部では、「不合理な格差は生じておらず、改善の必要性はなかったと考えています」としている。
https://www.j-cast.com/2018/04/14326160.html

まあ係争中なので当然ながら「不合理な格差はない」としか言いようがないでしょうがそれはそれとして、本音でも格差是正のためだとは考えていないように思われます。ボーナスは変動するので十分ではないにしてもそれなりの穴埋めも勝ち取っており、さらに上の記事にあるように10年間という長期にわたって調整手当が出るということなのでおそらくは経営サイドに相当の持ち出しがありそうで、私としては正直なところ労組はよくがんばったという感想です。働き方改革関連法案が成立して同一労働同一賃金関連が施行されれば、このように必要性の低下した手当などは段階的に廃止・縮小して他の手当(子育て支援とかな)や端的に基本給などに振り向けましょうという話はあちこちで出てくるのではないか、という話も過去何度か書いたと思います。
したがって「日本郵政働き方改革同一労働同一賃金を先取りして正社員の労働条件を切り下げたようなのでわが社も」という経営者が出てきて周りが迷惑、という心配をされるのはよくわかるのですが、それで日本郵政の労使を批判するのも気の毒だなあと思います。懸念を払拭するには労組が「穴埋めも経過措置も勝ち取っているし、これは同一労働同一賃金とは無関係」と明言するのが効果的かなあと思うわけですがさすがに立場上恐ろしく言いにくいでしょう(たぶん要求根拠としても同一労働同一賃金を担ぎ出しているでしょうし)。となるとマスコミに期待したいところですが無理だよねえ逆に煽っちゃってるんだもん。いやまあもちろんないものねだりですし同情しなくもないので責めるつもりもないのですが。
もちろん上記のようなけしからん経営者が出てくる可能性は高いというか間違いなく出てきそうなので、事前事後の対策には万全を期してほしいと思います。もちろん労組や労働弁護団などは相談窓口など開設されるだろうと思いますし、行政にも事前の周知や事後の指導をしっかり実施してほしいと思います。これらの広報についてはマスコミにも期待していいかな。