水町勇一郎『労働法第7版』

水町勇一郎先生から、『労働法第7版』をご恵投いただきました。ありがとうございます。隔年改訂で早くも第7版となりました。

労働法 第7版

労働法 第7版

若者雇用促進法やANA大阪空港事件などこの間の法改正や裁判例が織り込まれ、もちろん働き方改革についても記載があります。法案についてはまだ提出予定という扱いですが、不適切データ問題により裁量労働制関連部分が削除されたという最新動向も記載されています(これは有斐閣の中の人が相当がんばったものと思います)。ということで(働き方改革関連法案など)刊行後の法改正等については来年3月に「詳しくまとめた補遺を有斐閣ホームページで公開する予定」とのことです。
例の「同一労働同一賃金」に関しては、本文の記載に変更はありませんが、「正規・非正規労働者間の処遇格差の公序違反性(私見)」というコラムでは、自説を述べたあと、第6版では「有期契約労働者について期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を禁止した2012(平成24)年の労働契約法改正(労契法20条)は、この方向に向けて政策的に一歩前進したものと位置づけられよう。」と述べていたのに対し、今回の第7版では「2018年(平成30年)の通常国会に提出される予定の働き方改革関連法案は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇の相違の禁止(均等・均衡待遇の確保)を図る政策を推進しようとしており、この方向に向けて大きく前進している」と述べていて前進感がありますね。
また、最後の「むずび」は冒頭の日本の労働法の特徴に関する記載は第6版と同じですが、それ以降は全面的に書き換えられており、第6版ではわが国の雇用・労働法政策の整理から今後を展望していたのに対し、今回の第7版では労働法の国際動向から書き起こして(こうまとめると怒られるかもしれませんが)わが国労働法の欧州化を訴える内容になっています。
なお、本書の特徴のひとつとして多くの事例を設定していることがあり、そこに登場する人名や社名が思わずニヤリとしてしまうようなものになっていてこのあたり師匠譲りかななどと思っていたわけですが、今回(おそらくは全体のボリュームとの兼ね合いかと思われますが)いくつか削除されてしまったのが残念です。これなんか、面白い事例だったと思うんですけどねえ。まあここにはもうひとつ事例がありますし、時代遅れということかもしれませんが…。

 経産物産に勤務している好青年の山田君は、ある日営業部長に呼び出され、「西垣水産(経産物産にとっては最も重要な取引先)の社長さんが君を気に入って、君を一人娘の淳子さんの婿にもらいたいといっている。君の方にもいろいろと事情があるのはわかるが、ここはひとつ会社のためだと思って、淳子さんとお見合いをしてくれないか。これはわが社の業務命令だ」といわれた。山田君はこの命令にしたがって見合いをしなければならないか?
(第6版p.111)

そりゃ見合いする一手だろうこらこらこら、使用者の指揮命令権に関する事例ですが、「好青年の山田君」というのがなんともこたえられませんな。「冷たい性格の人事部長」の事例もなくなってしまっていて淋しい。また、いつのまにか時事通信社事件の事例で時季変更権を行使された記者さんの名前が辻村さん(だったと思う)から澤路さんに変わっているのを発見してコーヒー吹きました(笑)。

 大日本新聞社の社会部記者で、40日の年次有給休暇(うち20日は前年度繰越分)を有する澤路さんは、年休を利用してヨーロッパへ私的な取材旅行を行うことを計画し、…
(第7版p.290)