日本労働研究雑誌7月号

(独)労働政策研究・研修機構様から、日本労働研究雑誌7月号(通巻684号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

今回の特集は「モチベーション研究の到達点」ということで、だいぶん元人事担当者の私には親しみの持てる内容です。タイトルどおりに現時点における研究動向の紹介が豊富で勉強になります。特に安藤至大先生の論文は中でもわかりやすく、ああオイコノミアだなあと思うことしきり。さまざまな動機づけ施策の観点から労働法を考察した土田道夫先生の論文も、普段とは異なる視点で興味深いものでした。2000年頃から仕事の価値として安定がより志向されるようになったとの田靡裕祐先生の指摘や、中間管理職に多い強迫性の高いワーカホリックはメンタルトラブルのリスクが大きく外部からの介入が必要との大塚泰正先生の指摘もなるほどという感じです。
一方で今号で目を引いたのは特集外のコンテンツで、ひとつは大橋勇雄先生の投稿論文(研究ノート)が掲載されていることです。大橋先生らしい計量分析の論文で正直相当部分は私にはちんぷんかんぷんなのですが(笑)、2002年から2012年の非正規雇用の増加についてはその36%が労働力の構成変化で、43-46%が企業の政策変化で説明できるという結論はたいへん興味深いものがあります。それにしても投稿時の2015年5月にはすでに大橋先生は70歳で中央大学を退いておられたはずであり、その後2年近くかけて採択にこぎつけているわけで、その衰えぬ意欲と勤勉さにはまことに頭が下がる思いです。
もう一つは大内伸哉先生の『AI時代の働き方と法』の読書ノートを菅野門下の兄弟子である野川忍先生が書かれていることです。まあいつぞやの「書斎の窓事件」なども思い出すわけですが、現行の労働法学界にあってはおそらく相当に異端の書である(失礼)はずですが、野川先生は冒頭で「これまでにも増して過激な主張を展開した極めて刺激的かつ魅力的な一冊」と評した上で、続けてその内容を冷静かつかなり好意的な筆致で紹介されています。その上で最後に「「この本には言いたいことが山ほどある」との声が噴出するものと思われる。おそらくはそれこそ著者のねらい」と否定的な感触をにじませつつ、「本来は彼にとってより重要なはずの、高度な知的鍛錬に裏打ちされた重厚な学問的成果の産出を中断することのないよう、切に願わずにはいられない」と締めくくっておられます。まあたしかに私もこの本には(まあ山ほどたあ言いませんが)言いたいことがいろいろとあります(笑)。
AI時代の働き方と法―2035年の労働法を考える

AI時代の働き方と法―2035年の労働法を考える