2017年労働政策研究会議(1)

昨日開催されたので行ってまいりました。今年の準備委員長は明治の永野仁先生、会場は法政の新一口坂校舎で藤村博之先生が段取りしておられました(お疲れ様でした)。
http://www.jirra.org/kenkyu/index.html
さて今年は特段のオープニングセレモニーもなくすぐに自由論題に入りましたが、待機しているといきなり最初の報告者である世人研の河野尚子先生が体調不良でご欠席とのこと。おや。論題が「兼業・副業をめぐる法的課題―ICTを活用した働き方を中心に」というはなはだ時宜にかなったもの、かつ私としても非常に関心のある分野だったので残念でした。事前提出の論文では健康確保のために「兼業・副業に従事する者については、自発的に健康診断・面接指導を受け、その結果を事業者に提出することで、事業主に事後措置等を講ずることを義務付け」たうえで労働時間の通算制を見直す、といった興味深い提案もされていたので、聴講を楽しみにしていたのですが…。
ということでその時間帯は別会場に移動して東大の高村静先生のご報告を聴講しました。「構成員のワーク・ライフ・バランスにつながる管理職の行動特性」ということで、仕事の特徴や組織の取組が管理職の行動特性にどのように影響し、それが組織の成果にどう影響するかと、仕事の特徴や組織の取組と組織の成果とのダイレクトな関係の2つの経路で分析されています。
結果を見ると、仕事の特徴・組織の取組と管理職の行動特性の関係については、仕事量が多かったり突発的な業務があることと管理職による業務支援が行われることが有意に相関している(まあそれが管理職の仕事だ)とか、WLB組織の取組が認知されていることと管理職によるWLB行動特性のすべてが有意に相関している(これもまあ組織として旗が振られているのなら管理職がそれに沿って行動するのは当然といえば当然)などと納得の行く結論が得られています。また、管理職の行動特性が組織の成果に与える影響については、柔軟に働きやすいといった成果は上司による情緒的支援やWLBマネジメントと相関する一方、ロイヤリティに対してはその二つに加えて業務支援も相関し、さらに効率化に対してはその三つに加えてロールモデル性も相関していて、個人成果に較べて組織成果にはマネジメント系の因子も影響してくるという興味深い結果が示されました。さらに別の分析では、企業の取組認知はロイヤリティには直接にはマイナスの効果があり、管理職の行動特性を通じた間接効果で正の影響に転じているという結果が示されていて、管理職の役割が大切であること、たとえば制度を入れた(認知された)だけで使えないようではかえってマイナスで、管理職がそれを使えるマネジメントを行うことでプラスになる、という、まあそれもそうだろうなあという解釈が示されていました。
ただこれは部下を持つ課長職を対象にしたアンケートでサンプルサイズは1,068とのことで、仕事の特徴・組織の取組、管理職の行動特性、組織の成果はすべて課長さんの自己評価なので、近大の中島敬方先生がすぐに指摘されていましたがたしかに限界はあろうと思います。その上で私が興味をひかれたのは、管理職の行動特性が「他の課・グループに比べ業績はよい」と有意に相関しているわけですが相関係数はかなり小さく、相関してはいるもののそれほど大きく効いているわけではなさそうだという印象を受けるのに対し、仕事の特徴の中の「仕事量が多い」「目標水準が高い」と「業績はよい」の相関係数はかなり大きく、まあ課長さんの自己評価ということも加えて考えれば、要するに忙しく多くの仕事を高い目標でこなせば業績もよくなるという話のほうがよほど大きく効いているという結果でもあったようです(「突発的な業務がある」がマイナスで有意な相関というのも納得いくところです)。
その後は元の会場に戻り、ニッセイ基礎研の金明中先生の「アメリカやヨーロッパにおけるクラウドワーカーの現状や課題、そして日本へのインプリケーション」という報告を聴講しました。これも昨今注目を集めているタイムリーなテーマですが、そもそも公的な統計がないというのが実態とのことです。まあこれに限らず、統計調査が世間に遅れがちというのはどこにもある話であり、ある程度は致し方のないことなのでしょう。それでもいくつかの調査は実施されており、米国では以前ワークス研究所のシンポジウムでも紹介されていたと思いますが、Freelancers Unionというフリーランスの中間団体があり(日本にも日本フリーランス協会という組織が存在する)、そこが大手プラットフォーマと実施した調査によれば米国の2016年のフリーランス人口は実に5,500万人(日本の雇用者と同規模)、就労者の35%にのぼるとのことです。まあUberLyftとか一人でダブルカウントされているという事情があるのかもしれませんが、しかし2014年に較べて200万人も増えているとのことで、たいへんな成長?ぶりといえましょう。イギリスの調査では回答者の11%、ドイツでは14%、スウェーデンでは12%がクラウドワーカーとして働いているという結果だそうで、その収入は平均を大きく下回ることが多いとのことです。また、韓国では「労働の提供方法や労働時間等は独自で決定しているが、発注者から業務の指示・命令を受けている」という「特殊形態勤労従事者」の統計があり、全体の2.5%にとどまっているそうです。
日本はといえば、ランサーズ株式会社の「フリーランス実態調査2017年版」によると、フリーランスの数は2017年現在1,122万人、労働力人口の17%を占めており、昨年度に比べて実に5%も増加したとのことです。その経済規模も18.5兆円と、昨年比15%増とのこと。まことに急拡大していると申せましょう。
こうした中で、ここ数年、有力企業による業界団体(クラウドソーシング協会)の設立や厚生労働省による実態把握などの取り組みも進められているようです。
国際的に見ても、クラウドワーカーは雇用者に較べて収入も低く、就労も不安定であり、社会保障も手薄であるという問題は共通であり、Uberドライバーの労働者性を争う訴訟が米英で起きているというのが実情です。それに対し、英国議会は「自営業及びギグ・エコノミー特別委員会」を設立して調査検討を開始、米国では大手プラットフォーマがフリーランスに対して社会保険を提供、韓国でも自営業者の雇用保険加入を認めるといった取り組みも進んでいるということです。
日本については、3号被保険者制度や健康保険の被扶養者、労災保険の特別加入といった形で一部社会保障が提供されているに過ぎず、また先日は「政府は特定企業に属さずに働くフリーランスを支援するため、失業や出産の際に所得補償を受け取れる団体保険の創設を提言する」「損害保険大手と商品を設計し、来年度から民間で発売」との報道もあったものの(平成27年3月17日付日本経済新聞朝刊)、その後具体的な動きはないということです。
いずれにしても各国ともにフリーランスクラウドワーカーの処遇改善が急務と思われるものの立ち遅れていてわが国も例外ではなく、まずは最初に戻って公的統計の充実が第一歩と提言されました。
私の感想としては、過去繰り返し書いていますがやはり労働者性を云々するよりはフリーランスのための法整備をきちんとすべきだと思っており、そのためには発注者/受注者双方の中間団体を整備することが必要かなあと思いながら聞いておりました。報告後の質疑でも日本ILO協会の長谷川真一さんが「労基法上の労働者でなくても労組法上の労働者として交渉権や協約権、争議権が認められる類型がある」と指摘されて集団的関係の重要性を指摘しておられました。さすが元労働組合課長
さてこの会場では続けて篠田徹先生、花見忠先生(!)という大物が登場されて報告されたのですがこれ本当に自由論題ですか。まあこのお二方の報告はぜひ聞きたいということでこの会場を選んだわけですが、お二方とも普通に応募されたとのこと。すごいなあ。
ということでとりあえず今日のところは時間切れとなりましたのでここで終わります。何回かに分かれるとは思いますがなんとか最後まで行きたいと思います(がどうなることやら)。