第6回一億総活躍国民会議

さて昨日に続いて先週金曜日に開催された第6回一億総活躍国民会議の資料を見ていきたいと思います。今回の議題は「長時間労働是正、女性の就業促進、子供の教育問題について」の三点となっていますが、当然ながら各議員の関心にはばらつきがあります。今回も資料なしで発言された方もいたようですが、とりあえずはウェブサイトで公開された資料を「長時間労働是正」と「女性の就労促進」を中心に資料を見ていきたいと思います。
そこでまずまずNPO法人育て上げネットの工藤啓理事長と文京学院大の松爲信雄先生の資料はともに子供の教育にフォーカスしたものになっています。同じくまちの保育園の松本理樹輝代表の資料もほぼ子供の教育に尽きていますが、長時間労働についても「長時間労働があるから長時間保育が必要となる」「長時間労働がなくなれば保育士の労働条件の改善につながるし、子どものためにも良い」という趣旨の言及があります(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/dai6/siryou3.pdf)。これに関しては放送大学宮本みち子先生の資料にも同旨の記載があります(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/dai6/siryou4.pdf)。
たしかにそういう面もあるのでしょうが、しかし自宅近辺で子どもを預けて通勤時間が90分とすると18時30分に退社しても子どもの引き取りは20時になるわけで、これがここで是正すべきとしている長時間労働にあたるのかというのはやや疑問なしとはしません(9時から18時30分の勤務なら途中休憩1時間として週42.5時間)。さらに両親のいずれかが17時以降子どもの世話ができればこの問題は発生しないので、どれほどの影響があるのかという感はあります。もちろん両親がともに21時まで働いていて22時30分まで子どもを預けていますという例もあるでしょうが、そういう家庭はサービスに見合ったそれなりの高い代金を支払っているのではないでしょうか。
その流れで宮本先生の資料(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/dai6/siryou4.pdf)の関連部分を見てみますと、

【子育てのできる適正労働への転換を】
■女性の高学歴化は今後もさらに進む。学校でも入社試験でも女子の成績の方が良いという声はあちこちで聞かれる。しかし、長時間労働の慣行のために、優秀な女性が子育てのために退職せざるをえず、教育が無駄になっている。長時間労働という職場慣行を転換すれば、優秀な女性が活躍できるはずである。

■子育てができる労働環境作りに際して、妻側の職場だけを改善しても解決にはならない。夫側の職場を同時に改善しなければ、子育てができる共働き家庭は増えていかない。子育てしやすい社会環境を作るためにすべての事業所が子育てのための公平な負担をすることをルール化するべきである。
■乳幼児および学齢期の子どもをもつ親は、性別にかかわらず子どもの養育・教育責任を果たすことのできる適正な労働時間で働かねばならないことを経済界のルールにすべきである。

最初の部分は一見しただけだと女性が育児をすることを当然視しているように読めてかなり驚いたのですが、どうやら宮本先生は両親が等しく自ら育児に携わるべきだとのお考えのようです。
しかしそれは場合によっては女性にとっても余計なお世話になりかねません。祖父母に育児を頼んで、自らは勤続して時には残業も出張もこなしつつキャリアを積みたいと考えている女性にとっては、「子どもの養育・教育責任を果たすことのできる適正な労働時間で働かねばならない」というのはまことに迷惑な話だろうと思うわけです。もちろん、男性が専業主夫となって育児ももっぱら男性が担い、女性は就労を中心とするというスタイルも夫婦の自由な選択として認められることが望ましいと私は考えます。どうも宮本先生のご意見は自由と多様性が好きな私には違和感があります。
「妻側の職場だけを改善しても解決にはならない」というのも、このブログでも過去資生堂ショックに関連して問題提起したところではありますが、しかし多くの企業では妻も働いていれば夫も働いているわけで、性別不問で取り組むのであれば妻側/夫側と分ける必要もないでしょう。そしてやはり男女ともにニーズが多様である中では「すべての事業所が子育てのための公平な負担」といっても簡単な話ではなく、まあ児童手当拠出金のような形での応分の負担というのが現実的なところではないかと思います。
また、わざわざ経済界のルールと書いてあるのが私にははなはだイラッとくるところで、いつもの言いがかりで申し訳ありませんが学界は関係ありませんという本音が語るに落ちているように見えるわけです(すいません言いがかりです)。
ジャーナリストの白河桃子氏の資料(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/dai6/siryou6.pdf)は非常に大部なもので、まあ資料だけみて判断するのもどうかという気はしますが、正直なところダメという感じです。以下かなり荒っぽいコメントになりますのでご不満の向きもあろうかと思うのですがご容赦願うとして、たとえば途中、長時間労働の負のサイクルと長時間労働と上限の負のサイクルというのが何種類も出てきて、労働時間上限規制をすれば天国のような世界が待っているかのような資料になっていて中身をみるとなにかとツッコミどころも多いのですがそれはそれとして、とりあえずそんなに労働時間上限が素晴らしいならとっくにたくさんの企業がやっているはずなのに、そうはなっていない。それはなぜか、というのを労働時間上限をやっている・やろうとしている企業を集めてきて調査してみた結果は「他の企業がやってないからダメ」。これでは他人を理屈で説得することはできないよねえ。
あるいは、「学生・若手は長時間労働をどう見ているのか?」の調査結果ということで、あなたが就職するときに「大手企業で魅力がある会社だが私生活の時間があまり無い」を優先する人が28.1%、「中小企業で魅力がある会社で私生活の時間が取れる」を優先する人が71.9%だったから「大手企業よりも、「私生活の時間が取れる中小企業」の方に魅力を感じる」という結論を導き出しているわけですが、これも採用業務を担当している人(大手であれ中小であれ)から見たら噴飯ものの議論でしょうねえ。
ということで前回と同様、さすがに一流のジャーナリストらしく面白く興味をひく資料ではあるけれど、それで何かが動くかというとそうでもないかなあという感じです。為念お断りしておきますがこれは内容や主張の当否や是非とは無関係な話です(いや内容がすばらしいとも思わないが)。
ということでまだ樋口美雄先生をはじめ何人も残っていますが、今日はここまでとして明日以降とさせていただきたいと思います。