大竹文雄『経済学のセンスを磨く』

大竹文雄先生から、ご著書『経済学のセンスを磨く』をご恵投いただきました。ありがとうございます。
(愛知の本社のほうに到着して回送されたため御礼とご紹介が遅くなり申し訳ありません)。

2012年から連載されている日経センターのウェブサイトの人気コラム「経済脳を鍛える」を書籍化したものということです。このコラムは最近も(まだ最新のようですが)ピケティブームを踏まえた「いくら以上の年収ならトップ1%?」が話題になりました。タイトルのとおりさまざまな社会現象を経済学の発想で考えるとこうなる、というエッセイで、読みやすい上に時折常識と異なる思いがけない結論などもあるといういつもながらの大竹先生コラムで、私も愛読者のひとりとして毎回楽しみに読んでおりました。
この本にはその直前の今年1月の「○○をしていないのはあなただけです」までが掲載されています。全部掲載されているかどうかは確認していませんが、どうやら未読らしいものも二・三ありましたので早速読みました。
掲載順ではなく、第1章は主に一般的な市場や価格に関する話題、第2章は行動経済学に近い分野の話題、そして第3章が税制、第4章が教育に関する話題という形で整理されていてこの間税制や教育に関する議論が多かったことが改めて思い起こされるわけですが、こうした編集とすることで「経済学のセンスを磨く」のに資する本として仕上がったという寸法のようです。
ということで実は日経センターのウェブサイトでも元ネタはまだ読むことができるということはとっても秘密ですが(笑)、まあコンパクトな新書でありそれほど高い本というわけでもないので買って持ち歩いて読んで損はないものと思います。
不定期の連載のようですがそろそろ次が公開されるころではないかと思われますので、先生次回も楽しみにしておりますので今後もよろしくお願いします。

「ブラック企業を早期公表」フォロー

先日のコラムでご紹介した記事で「塩崎恭久厚労相が18日に臨時で全国労働局長会議を開いて指示する」とされていた会議が開催され、厚労省のウェブサイトで資料が公開されましたのでフォローしておきたいと思います。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000085142.html
まず「概要」としてこうあります。

 長時間労働に係る労働基準法違反の防止を徹底し、企業における自主的な改善を促すため、社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を複数の事業場で繰り返している場合、都道府県労働局長が経営トップに対して、全社的な早期是正について指導するとともに、その事実を公表する。

これは案外?「経営トップに対して」というところが重要なのかもしれません。都道府県局長が社長さんに向かって面着で直接「御社のような社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を複数の事業場で繰り返している」のは非常によろしくないからすぐに是正してください、今ここで是正すると言わなければ企業名を公表します」と恫喝するあーこらこらこら、いや指導するということでしょうか。しかし東京の本社に社長さんがいるけれど違法な長時間労働をやっているのは横浜と京都と北九州の研究所ですという場合は誰が指導に行くのかな。やはり東京都労働局長でしょうか。
次に「都道府県労働局長による指導・公表の対象とする基準」とあって、こうなっております。

指導・公表の対象は、次の?及び?のいずれにも当てはまる事案。
? 「社会的に影響力の大きい企業」であること。
⇒ 具体的には、「複数の都道府県に事業場を有している企業」であって「中小企業に該当しないもの(※)であること。
中小企業基本法に規定する「中小企業者」に該当しない企業。
? 「違法な長時間労働「相当数の労働者」に認められ、このような実態が「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」こと。
「違法な長時間労働」について
⇒ 具体的には、(1)労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反が認められ、かつ、(2)1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えていること。
「相当数の労働者」について
⇒ 具体的には、1箇所の事業場において、10人以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者において、「違法な長時間労働」が認められること。
「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」について
⇒ 具体的には、概ね1年程度の期間に3箇所以上の事業場で「違法な長時間労働」が認められること。

例によって一部機種依存文字を変更しました。また強調はなるべく忠実に再現しましたがそのとおりではありません。
さて概ね新聞記事どおりではあるものの異なる点もあって、まず大きいのは「10人以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者」とされていて記事よりかなり要件が緩やかになっているところです。つかこれ厚生労働省完全にアウトじゃんこらこらこら、いや大企業の研究所なら1,000人規模は珍しくないはずで、そこに900人の研究員が勤務して先端分野の研究開発をしていたら、まあ10人くらいは月100時間超えていても不思議じゃないんじゃないかなあ。それに目くじら立てますか?
一方で「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」については「概ね1年程度の期間に3箇所以上の事業場」ということなので、先日のエントリで書いたような2つの研究所にとどまるケースはセーフということのようです。ただし「繰り返されている」についてはあいまいな感はあり、概ね1年間で3つの事業場でそれぞれ1回ずつ違法な長時間労働があれば該当するのか、各事業場それぞれで2回以上「繰り返されている」ことを要するのかは不明なように思われます。
また労基法違反については「労働時間、休日、割増賃金に係る」との限定がつきましたので、先日のエントリであげた例だと36協定の有効期限切れはまともにアウトですが、就業規則の周知義務違反についてはセーフということになりそうです。
ということで実際の運用がどうなるのかが大問題ですが、あるいはすでにあの企業をなんとかしたいとかいう具体的なターゲットがあるのかもしれませんし、そうは言ってもよほど悪質なケースに限られてくるのだろうなとも思います。ただここまでこぶしを振り上げてしまったらどうにかして下ろさなければいけないという話になると困るなという感はあり、そのためにスケープゴートを仕立てあげるようなことは、まさかないとは思いますが…。