選挙公約

あれよあれよという間に選挙という話になり、各党の選挙公約も出そろってまいりました。文書の配布は選挙期間のみということで現時点ではウェブ上での政策集の公開ということになっているようですが、例によって雇用関連の記述がどうなっているか見てみたいと思います。
まずは自民党から。

<多様な働き方で皆が活躍できる社会を>

  • 産業政策と教育・雇用政策の一体的実施を推進し、人手不足問題の解消及び人材の養成、適正な労働条件の確保を図ります。
  • 地域の創意工夫を活かした若者等の雇用の場の創出・人材育成や、人手不足分野の企業での魅力ある職場づくりを推進します。
  • パートタイム労働者、契約社員派遣労働者等の雇用形態で働いていて、正規雇用への転換を希望する方々のキャリアアップ等を図り、正規雇用への転換を果断に進めます(正社員実現加速プロジェクトの推進)。
  • それぞれの人生、生き方、生活を大切にする観点に立った多様な働き方や公正な処遇を実現し、働く方々が納得して働くことのできる労働環境の整備を進めます。
  • 長時間労働を美徳とする働き方を見直すことにより、メリハリの効いた働き方を実現するとともに、仕事と家庭の両立支援を推進し、一人ひとりがワーク・ライフ・バランスを実現できるようにします。
  • 産業の求める中核人材等を育成するための職業訓練を充実させるとともに、ものづくり人材の確保・育成を進めます。
  • 未来を担う若者全員が希望する仕事につけることを目指し、就職活動から入社後までの一貫した支援・若者を応援する企業の支援、ジョブカードの活用推進のための法的整備を行います。
  • シルバー人材センターの更なる活用や高齢者の方の雇用ルールの見直しにより、働く意欲のある高齢者の方々が生涯現役として働きやすい環境を整えます。

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/126585_1.pdf

いきなり微妙な記述が。「産業政策と雇用政策の一体的実施を推進」と言われたら私もそうだそうだそれが大切だと賛同する(もっとも産業政策の内容にはよる)わけですが、なんだって「教育」を入れたのかなあ。まあ続けて「人材の養成」が出てきますし、後のほうでは「産業の求める中核人材等を育成する」とかも出てきますし、教育政策のほうでも「「専門実践教育訓練」の指定対象の拡大を図るとともに、産業界のニーズを踏まえた実践的な教育プログラムを提供する大学・専修学校等を支援します。」というのも出てきますので、建設業などでのミスマッチ対策のようなことが念頭におかれているのかもしれません。ただこと建設業においては復興需要と2020年東京大会という一過性の要因が大きく、その先どうなるかわかりませんという話だと若い人にこの分野の専門実践教育を大々的に行うというのは少し考えどころのような気はします。その後も海外へのインフラ輸出などで雇用は安定しますという見通しがあればいいのですが…。
「人手不足問題の解消」というのも微妙なところで、たしかに人手不足の実態はあるのでしょうが、しかしデフレ脱却を目指すなら賃金が上がり始めるまで人手不足解消は不要ではないかとも思うのですがどんなものなのでしょう。さらに続けて「適正な労働条件の確保」と書いているわけですし、人手不足対策はやるにしても人手不足→賃金上昇→物価上昇まで来てからでもいいんじゃないでしょうか。というかそもそも人手は過剰なほうが不足よりよほど困るわけで、ぴったりの状態を維持することはまあ不可能だと考えれば、人手不足は解消すべきものではなく、むしろできるだけ人手不足状態=好況を継続できるようにすることが望ましいのではないかとも思うのですが。それがその次に書いてある「人手不足分野の企業での魅力ある職場づくり」にもつながるわけで。
その次の正社員実現加速プロジェクトも同じことで、人手不足が続いてもう非正規では人手が確保できません、正社員にしますと言わなければ人が集まりませんという状況になれば自然と「加速」するのではないかと思います。現に人手不足の業種職種では正社員化が進んでいるわけですし。
その次の「長時間労働を美徳とする働き方を見直す」というのは、まだそんな実態があるのであればぜひ見直しを進めてほしいと思います。ただ、「必要なときに残業や休日出勤を頼めるのはありがたい」というのと「長時間労働が美徳」というのは区別して考える必要はあるだろうと思います。まあ「メリハリの利いた働き方」(きいたはこっちのような気がしますがどちらでもいいのかな)というのは当然前者のこと(必要なときには残業も休日出勤もするけれど必要なければ定時で帰るし休めるときは休む)でしょうからそれならそれで歓迎したいと思います。なおここで新しい労働時間制度を持ち出さなかったのは単に度胸がなかったというか有権者の不興を恐れたのだろうと邪推しますが結果的にはたいへんけっこうなことではなかったかと思います。繰り返し書いているとおり新しい労働時間制度でワークライフバランスとかいう妙ちきりんな話はいいかげんにしたらどうかと思いますので。
さて続けて「産業の求める中核人材等を育成するための職業訓練を充実させるとともに、ものづくり人材の確保・育成を進めます。」と妙にこのあたりで力んでいるわけですが、まあ中核人材の定義次第ですし「等」もついているのではありますが産業の求める中核人材が職業訓練の充実で育成できるなら楽だよなとは思います。ただまあOJTだって職業訓練だと考えればそのさらなる充実は望まれるところで、次に出てくる「若者を応援する企業の支援」というのも「若者にOJTを行い中核人材として育成する企業を応援する」という意味であるならまったく同感です。どうもこの手の若者支援の話は若者を直接支援するより若者を支援する企業などを支援した方が効果的なように思われます。
最後はよくわからないところで、シルバー人材センターの現状がそれでいいかというといろいろ議論があると思いますし他の項目と較べて妙に粒度が細かいように思うのですが、とりあえず高齢人口が増大する中ではその更なる活用が望まれるというのはそのとおりと思います。続く「高齢者の方の雇用ルールの見直し」というのは具体的内容が不明なのですが、65歳定年とか65歳以降の継続雇用とかをお考えなのでしょうか。これはまた大幅に粒度が上がりますが…。当然ながらここは社会保障・老齢年金とセットのはずですがこちらについては具体的な記述はほとんどないので(まあ仕方ないとしたものか)、なんとも見当のつきかねる話ではあります。とりあえず高齢者雇用にも取り組みますよ、という姿勢を示したというところでしょうか。
さて民主党のほうも一応見ておきましょう。

雇用
●「労働者派遣法の改悪」、「残業代ゼロ制度(ホワイトカラーエグゼンプション)」、「解雇の金銭解決制度」の導入など労働規制緩和を認めず、雇用の安定を図ります。
●「同一労働同一賃金推進法」を制定します。正規・非正規を問わず、すべての労働者の均等・均衡処遇、能力開発の機会を確保し、雇用形態を理由とした労働条件の不合理な差別をなくします。
●中小企業に対する支援を行いつつ、最低賃金を引上げていきます。
●過労死ゼロをめざし、民主党が提唱して成立させた過労死等防止対策推進法に基づいた施策を着実に推進します。
●若年者雇用について、学校における職業教育や進路指導、職業相談等就労支援をさらに拡充します。障がい者雇用を広げ、また、高齢者が体力に応じて働ける環境をつくります。
http://www.dpj.or.jp/global/downloads/manifesto2014.pdf

労働者派遣法改正が規制緩和だとか(実際には規制強化も多い)、新しい労働時間制度を「残業代ゼロ制度」だとか言っている時点で頭を抱えますし、「同一労働同一賃金推進法」もせんだって野党が共同提出した法律案をみるかぎり実態と乖離した理念が多く、野党は気楽でいいですねくらいの感想しか出てきません。民主党はかねてからマクロ経済を成長させて雇用を改善するという発想が皆無に見えますので、まあ限界はあるかなと。
特に最後の若年者雇用についてはこれだけかという感じですが、学校での職業教育というのは自民党が言うところの「産業界のニーズを踏まえた実践的な教育プログラム」みたいなものを考えているのでしょうか。教育政策のほうでも特段職業教育の話は出てこないのですが…。