厚労省、卒後3年は新卒扱いを要請

「青少年の雇用機会の確保等に関して事業主が適切に対処するための指針」が改正され、本日公布・施行されたということで、厚生労働省からプレスリリースが出されています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000wgq1.html
発表文中にも「今般の改正では、事業主は、学校等の新卒者の採用枠に学校等の卒業者が学校等の卒業後少なくとも3年間は応募できるようにすべきものとすること等を新たに盛り込みました」とあるように、「卒業後3年間は新卒扱い」が今回の眼目のようです。これは指針の「第二」にあって、具体的にはこのように改定されました。

第二 事業主は、青少年の募集及び採用に当たり、就業等を通じて培われた能力や経験について、過去の就業形態や離職状況、学校等の卒業時期等にとらわれることなく、人物本位による正当な評価を行うべく、次に掲げる措置を講ずるように努めること。
二 意欲や能力を有する青少年に応募の機会を広く提供する観点から、学校等の卒業者についても、学校等の新規卒業予定者の採用枠に応募できるような募集条件を設定すること。当該条件の設定に当たっては、学校等の卒業者が学校等の卒業後少なくとも三年間は応募できるものとすること。また、学校等の新規卒業予定者等を募集するに当たっては、できる限り年齢の上限を設けないようにするとともに、上限を設ける場合には、青少年が広く応募することができるよう検討すること。

太字がこの部分で今回追加された箇所ですが、下のリンク先にある概要資料をみると、前段の「、学校等の卒業時期」がすっとばされていて、いかに「3年」に重きをおいているかがうかがわれます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000wgq1-img/2r9852000000wgtx.pdf
さて、指針は改正前にすでに「学校等の卒業者についても、学校等の新規卒業予定者の採用枠に応募できるような募集条件を設定すること」と、既卒者の新卒枠での採用を求めていました。実態としても、経団連の「新卒採用(2010年3月卒業者)に関するアンケート調査」をみると4割近くがすでに既卒者の応募を受け付けており、うち4分の3は「新卒採用と同様の扱い」としています。新卒と同じ選考プロセスに乗せているのか、第二新卒として別プロセスで選考しているのかはわかりませんが、いずれにしても内部育成を前提とした未熟練者の採用ではあるということでしょう。
そうした実態がある中で、今回の改正で具体的に「少なくとも3年」を求めたことになります。すでに既卒者の応募を受け付けている企業において、卒後1年、あるいは卒後2年までに募集を限定している企業がどの程度あるのかわかりませんが、まあ常識的に考えて卒後3年くらいまでは受け付けている企業のほうが多いのではないでしょうか(根拠はないので私の山勘ですが)。であれば今回の改正は企業実務にはそれほど大きな影響はないはずで、むしろ既卒者の募集を受け付けていない企業、わが社は新卒で十分に人材確保できてますという企業にいかに既卒者への門戸を開かせるかが重要ということになりましょう。
また、これで就職状況がどれほど改善するかといえば、過去のエントリでも書いたようにこれで採用数が増えるわけではないのであって、仮に既卒者の就職が増えるとすれば、その分は新卒見込者の就職が減るということになるでしょう。ということで、毎度書いていることではありますが、経済が活性化し、企業活動が活発になって、労働力需要が高まって採用数が増えてはじめて就職状況も改善するわけで、「卒後3年間は新卒扱い」のような需給の改善をともなわない施策の効果は限られてこざるを得ないでしょう。
加えて、これも過去書きましたが、企業としては優れた人材ほど早く就職が決まる傾向があるだろうと考えるでしょうし、となると卒後年数が経過すればするほど優れた人材は乏しくなるだろうとも考えるでしょう。であれば、既卒者の新卒扱いを求めてもその効果はあまり大きくないでしょうし、そういう意味で3年というのが手頃な期間と判断されたのかもしれません。
発表文には「いったん卒業すると新卒枠への応募機会が極めて限定される」という一節があり、たしかに前述した「わが社は新卒で充足できるから」という企業に門戸を開かせることが重要ですが、これも結局は「新卒で充足できないくらいの需要がある」という状況をつくることが効果的だろうと思われます。小手先で労働市場をいじるのではなく、需給を改善するための適切な金融・経済政策こそが望まれるのではないでしょうか。