労働政策を考える(6)雇用対策

 「賃金事情」2567号(本年7月5日号)に寄稿したエッセイを転載します。
http://www.e-sanro.net/sri/books/chinginjijyou/a_contents/a_2009_07_05_H1.pdf
 4ヶ月前のものなので、だいぶ古い感じになっていますが、今回の雇用調整期における自公連立政権時代の雇用対策をレビューしたものです。政策の整理にはなると思います・・・かな?


 サブプライム問題などによる経済情勢の悪化に対し、2008年8月の「安心実現のための緊急総合対策」、10月の「生活対策」、12月の「生活防衛のための緊急対策」、そして2009年4月の「経済危機対策」と、4次にわたる経済対策が矢継ぎ早に打ち出されました(以下「安心実現」「生活対策」「生活防衛」「経済危機」と略記します)。そして、この間の雇用失業情勢の悪化を受けて、その相当部分が雇用対策にあてられています。その内容には、大別して「雇用創出」「雇用維持」「失業者支援」の三種類があります。
 「雇用創出」が最も重要かつ効果的な雇用対策であることは論を待ちませんが、経済対策はすべて雇用創出につながるという面もあります。その中で、とりわけ雇用創出に特化しているのが「生活対策」に盛り込まれた「ふるさと雇用再生特別交付金」でしょう。これは2,500億円の基金を設定し、地域において安定的な雇用を創出する事業を行うことを支援するものです。また、「生活防衛」には「緊急雇用創出事業」があり、1,500億円(のちに「経済危機」で3,000億円上積み)の基金が設定されました。これは再就職までの一時的な「つなぎ」の仕事を自治体が提供しようというものです。
 「雇用維持」の代表的なものが、雇用調整助成金制度の拡充でしょう。「安心実現」では同制度を拡充して中小企業緊急雇用安定助成金制度が導入され、その後の「生活対策」「生活防衛」「経済危機」でも段階的に拡充されています。2009年3月の「雇用安定・創出の実現に向けた政労使合意」では、余剰人員を解雇せずに休業、教育、出向などで対応して雇用を維持することを「日本型ワークシェアリング」と称しましたが、その場合の賃金の一部を国が助成するこの制度は、その根幹を支えるしくみと言えましょう。
 一連の雇用対策の中で、今回の雇用失業情勢悪化局面の特徴がよく表れているのが「失業者支援」の諸施策です。
 今回局面の特徴といえば、まずは非正規労働問題であることは言うまでもありません。「安心実現」で目立っているのは「訓練期間中の生活保障給付制度」の創設です。これは、非正規雇用から失業した人は雇用保険の受給資格がない人も多く、その場合失業給付や訓練延長給付を受けることができないため、これに代わる訓練期間中の生活支援制度です。この制度も繰り返し拡充され、現在では原則として公共職業訓練(離職者訓練)を受講している人に月12万円(扶養家族を有する場合)を貸し付け、一定の要件を満たせば返済が免除される制度になっています。
 「生活対策」で注目されるのは「若年者等正規雇用化特別奨励金制度」の導入でしょう。非正規労働の中でもとりわけ問題視されている年長フリーター正規雇用した事業主に100万円(大企業50万円)を助成するというものです。
 非正規労働については、企業が提供する住宅に居住していた人が失業とともに住宅を喪失するという問題もクローズアップされました。「生活防衛」ではその対策として、退職後も住宅を継続して貸与する事業主に助成を行う「離職者住居支援給付金」や、住宅を喪失した労働者に敷金・礼金や家賃、生活費の融資を行う「就職安定資金融資事業」などが導入されています。さらに非正規雇用関係では、自社で働く派遣労働者を雇い入れた事業主に奨励金を支給する「派遣労働者雇用安定化特別奨励金」制度も導入されました。
 また、この時期に内定取り消しが問題になったため、「生活防衛」では「生活対策」で導入された若年者等正規雇用化特別奨励金制度の対象者に内定を取り消された人を追加しています。
 加えて、「生活防衛」では雇用保険制度の機能強化が織り込まれ、改正法案は3月27日に成立、3月31日にスピード施行されました。短時間就労者・派遣労働者雇用保険の適用基準の緩和(雇用見込み1年以上を6か月以上に短縮)、雇い止めとなった非正規労働者に対する基本手当の受給資格要件の緩和(被保険者期間が過去2年間に12ヶ月以上から過去1年間に6ヶ月以上に短縮)などが行われ、非正規労働者への雇用保険の適用の拡大が図られました。
 そして「経済危機」では、「緊急人材育成・就職支援基金」の創設が目をひきます。その中心は「訓練・生活支援給付」で、30万人分を確保しているそうですが、これは訓練期間中の生活保障のための支給(単身者は月10万円、扶養家族を有する者は月12万円)と貸付(それぞれ上限月5万円、月8万円)を行うというものです。これまでは貸し付けて返済免除というしくみでしたが、それを支給にし、さらに新たな貸付を設定した、ということのようです。また、この基金を使って、帰国を希望する日系人離職者・家族への帰国支援金の支給なども行うとされています。
 さて、このようにさまざまな雇用対策が打たれてきましたが、まだ始まったばかりの事業も多く、効果を判断するにはしばらく時間がかかりそうです。
 そうした中でも、雇用調整助成金制度の拡充がかなり大きな成果をあげたことは確実なようです。厚生労働省は、このところ毎月「雇用調整助成金等に係る休業等実施計画届受理状況」を発表していますが、それをみると、中小企業緊急雇用安定助成金制度が創設された2008年12月から急速に利用が増え、今年4月までの5か月間で対象労働者数は約780万人という多数になっています。実施期間毎に届出が必要なのでダブルカウントがありそうですが、それにしても仮にこの数字の10分の1が失業者になっただけで、完全失業率は1%以上上昇します。さすがに労使がともに要望した政策だっただけあって、相当の成果だったと評価していいでしょう。
 その他の政策をみてみると、この6月2日に開かれた政府の「第4回緊急雇用・経済対策実施本部会合」に厚生労働大臣が提出した「経済対策の実施状況及び今後の取組について」という資料によれば、職業訓練期間中の生活保障給付については5月29日現在、申請183件、貸付決定117件となっています。訓練・生活支援給付が30万人を想定しているのに較べると少ないように思えますが、これは当初、対象者の範囲が委託訓練活用型デュアルシステム受講者など、かなり狭かったことにもよるでしょう。就職安定資金融資事業については、やはり5月29日現在で貸付決定が8,237件となっています。こちらは、住居喪失、資産や預貯金がないといった条件があることを考えれば、かなりの利用状況といえそうです。緊急雇用創出事業については、当初の1,500億円を3月25日に全ての都道府県に対して交付完了となっています。前回の雇用調整期にも類似の制度が設けられ、活発に利用されましたので、今回もこれは活用が進むものと思われます。それを念頭に「経済危機」で3,000億円を積み増したものでしょう。
 景気は底を打ったとの見方もあるようですが、雇用関連の指標はまだ低調で、当分の間は厳しい雇用失業情勢が続くことが予想されます。各施策の効果を検証しつつ、適切な政策運営を期待したいものです。