「緊急雇用対策」雑感

政府が近々打ち出す予定の「緊急雇用対策」について、各所で報じられています。新政権としては初めてのまとまった雇用対策ということになるのでしょうか。YOMIURI ONLINEによればその内容はこんな感じのようです。

 政府の緊急雇用対策本部(本部長・鳩山首相)が策定する雇用対策の素案が21日、明らかになった。

 「介護」「グリーン」「地域社会」の3分野での雇用創出などが柱で、雇用の下支え・創出効果は「2010年3月末までに10万人程度」と見積もった。23日の同本部で正式決定する。

 働きながら職業能力を高める「緊急雇用創造プログラム」では〈1〉介護分野で、施設で研修勤務しながら介護福祉士などの資格試験を受ける場合、特例として実習を免除〈2〉農林、環境、観光の「グリーン」分野で、建設業などからの転職支援や人材育成〈3〉「地域社会」分野で、若者やフリーターの雇用支援を行うNPOなどを活用――などとした。

 生活困窮者らへの支援強化では「緊急支援アクションプラン」の策定を掲げ、ハローワークで職業あっせんのほか生活保護手続きなど複数の制度申請ができる「ワンストップサービス」を11月から試験実施することも盛り込んだ。推進態勢強化へ、首相も加わる「雇用戦略対話」(仮称)を政府に、「地域雇用戦略会議」(同)を地域ごとに設ける方針も明記した。

(2009年10月22日05時17分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091022-OYT1T00029.htm

さて、今年度中ということは半年もない短期間ですから、やれることも限られてくるのは致し方のないところでしょう。そもそも雇用対策が具体的な雇用増につながるためにはある程度のリードタイムは必要なわけで、そこで即効性が見込まれるのはやはり公共事業になり、したがってこれまでの雇用対策はどうしても公共事業に依存しがちであったわけです。
それに対し、現政権は公共事業には頼らないという姿勢のようなので、すぐに効果があがる施策は限られるでしょう。とはいえ、失業者が三百数十万人いることを考えると「10万人程度」というのはいかにも物足りない感じは否めません。しかもこれは創出+「下支え」ということですから、純増というわけでもなさそうです。とりあえず、やはりマクロ経済の改善が最大の雇用対策だということがあらためて思い起こされます。
とはいえ、これは一応マクロ経済が改善が不十分な中でどうするか、という議論なのでしょう。中身については23日に全体が発表されてみないとなんともいえないのでしょうが、とりあえず読売が紹介している具体策はいずれも小粒で踏み込み不足の感があります。介護分野が人手不足であることはとみに指摘されるところですが、なにも介護福祉士が不足しているから人手不足だというわけではないでしょう。現行介護保険制度下での介護報酬が人材確保に必要な賃金を確保できる水準に達していないことが最大の問題であることはほぼ業界の共通認識であるはずで、そこにどう踏み込むのかが重要なはずなのです。まあ、これから半年ではそこまではできないから、ということなのでしょうが。
「グリーン」分野もことば的には流行なのでしょうが、過去の経緯としては農業や林業の雇用が縮小し、それが建設業に向かってきたのではないかと思うわけで(自信なし。間違いであればご指摘ください)、「転職支援や人材育成」だけで単純な逆戻りができると考えるは無理でしょう。農業や林業のあり方を変えないかぎり雇用創出は難しいのではないかと思われますが、国民負担で農業保護を強化するというのは国内的にも国際的にも理解を得ることは難しそうですから、株式会社による農地保有を認めるなど、大規模化・産業化のための環境整備が必要ではないでしょうか。まあ、これまた半年でやれる話でもなければ半年で効果が現れる話でもないわけではありますが…。
 いずれにしても、介護にしても農林業にしても、ビジネス環境を整備して企業活動の活性化をはからなければ大きな雇用創出は難しいということはいえると思います。それはそれでしっかり検討されるのだろうと思いますが、介護保険の料率引き上げや自己負担増はしたくない、「家族的営農」も守りたい、したがって今回程度の対策しかできない…ということでなければいいのですが…。
「「地域社会」分野で、若者やフリーターの雇用支援を行うNPOなどを活用」というのは、これだけではよくわかりませんが、47ニュースによれば「民間非営利団体NPO)などが参加し、若者やフリーターを雇用する「社会的企業」の活用を検討する」のだそうです。依然としてよくわかりませんが、若者やフリーターの雇用問題の解決を目的にした企業を地域レベルで作ろうということなのでしょうか。目的が目的なので事業の内容はなんでもいいわけですが、しかし社会的企業は営利を目的としないまでも赤字続きでは存続できませんから、そうそう簡単な話でもないような…というか、私は社会的企業についてはよく知らないのではありますが、やはり事業内容が目的でなければ社会的企業とはいえないような気もしますが、まあこれは私がそんな気がするというだけのことですが…。
さて、同じ「緊急雇用対策」に関するasahi.comの記事も紹介しておきましょう。読売とだいぶ感じが違います。

 政府が23日に公表する「緊急雇用対策」の原案が21日、明らかになった。ハローワークで職業紹介や生活支援など複数の手続きができるワンストップ・サービスを11月から始めるほか、働きながら介護資格などが取れる就業支援制度を設ける。雇用情勢に改善の兆しが見えないなかで、「年越し派遣村」の再来を防ぐ狙いがある。

 ワンストップ・サービスは11月下旬から、東京、大阪、愛知など都市部のハローワークで実施する。自治体の福祉窓口や社会福祉協議会の職員にも加わってもらい、職業紹介のほかに、当座の生活資金の貸し付けや、住宅手当を支給する制度の申し込みなどをできるようにする。利用状況をみて対象施設や実施日の拡充も検討する。

 年末年始に行き場を失った失業者の相談窓口として、ハローワークは仕事納め後の12月29日と30日も開庁する。失業率が過去最悪の水準で推移しているため、年末に緊急避難的に入居できる住宅や施設の確保も検討する。

 新卒者の採用状況も悪化しているため、就職先が見つからないまま卒業してしまった新卒者に、公的負担で職業訓練を受け、生活費も支給される緊急人材育成・就職支援事業を積極的にPRしていく。

 中長期的な雇用の創出策として、働きながら介護分野などの資格取得を目指す仕組みを設ける。失職した非正社員を一時的に雇用するための基金である「緊急雇用創出事業」(4500億円)の要件を緩和し、資格取得のための研修費用や手当なども支出できるようにする。
http://www.asahi.com/politics/update/1021/TKY200910210510.html

こちらをみると足元の雇用創出はまったくないような印象を受けます。それもいささか気の毒な感はありますが、まあ朝日の関心はそこにはないのでしょう。「緊急雇用創出事業」の要件緩和というのも出てきますが、これは新政権が目の仇のようにして執行停止しようとしていた「補正予算基金」の一つですね。まあ、この基金については地方からも「停止されては困る」との声が多くあがっていたそうですし、是々非々で判断したのでしょう。あまり硬直的にならないのは好ましいことだろうと思います。
面白いのは「「年越し派遣村」の再来を防ぐ狙いがある」というところで、本当にそんな狙いがあるんですか?単なる集会というかイベントというか、示威行為というのか、いずれにしても「再来を防ぐ」ほどのものではないような気がするのですが…なにをそんなに気にしているのでしょう。まあ、時の政権がその開催を気にするくらいの一大イベントを仕掛けたわけですから、湯浅誠氏の手腕は見事なものだということはいえそうです。それはそれとして、どうやって再来を防ぐのでしょうか?政府が湯浅誠に対して「緊急雇用対策をやるのだから、派遣村はやめてくれ」と頼むとでも?というか、前回あれだけの成功を収めたわけですから、今回は湯浅氏がやらなくてもマネをする人が出てくるでしょう。日比谷公園だけではなく、中之島公園やら白川公園やらでもやる人がいるかもしれませんし…。
まあ、雇用対策が最重要課題の一つであることは間違いないわけですから、新政権には妙なところに気をつかわずに、柔軟な姿勢をもって、「雇用戦略対話」の場で民間労使の知恵も取り込みつつ、よりよい政策を立案・実行していただきたいと思います。