短期の成果を求めずに

4日付読売新聞の社説です。お題は「雇用悪化 いかに就労の場を増やすか」。

 雇用情勢がさらに悪化している。何よりも仕事の場が足りない。
 求職者に対して企業の求人がどれだけあるかを示す有効求人倍率が、5月は0・44倍と、過去最低を記録した。新規求人も、5月は前年同月比で34・5%の減少である。
 5月の完全失業率も、一段と悪化して5・2%となった。過去最悪の5・5%に迫っている。職がなく、失業が長引いている人が増えているのではないか。
 政府は景気の底打ちを宣言したが、雇用に関する限りは、そうした展開になっていない。
 消費者物価の下落も、消費者の財布のひもが固いのが一因だ。雇用が安定しなければ消費は盛り上がらず、結果として企業収益にも雇用にも響いてくる。悪循環を断つカギの一つが雇用だ。
 雇用対策を柱に据えた2009年度の補正予算が成立した。それぞれの施策を速やかに実施に移していく必要がある。
 従業員を解雇せず、休業措置などで対応する企業に支給する雇用調整助成金も、補正予算で新たに6000億円が手当てされた。企業には、労働時間の短縮や出向など、あらゆる工夫をして雇用の維持に努めてもらいたい。
 補正予算関連では、職業訓練中の生活費を支給したり、求職者を実習生として受け入れる中小企業に助成したりする仕組みも設けられた。医療や福祉などの分野の職業訓練も拡充する。
 大切なのは、確実に仕事に結びつけることである。施策の効果を見極めつつ中身を見直すなど、弾力的な運用が欠かせない。
 雇用の深刻さを踏まえれば、民主、社民、国民新の野党3党が先週国会に提出した労働者派遣法の改正案には、問題がある。
 日雇い派遣や、専門業務を除く製造業派遣を禁ずる内容だ。日雇い派遣禁止は政府案にも盛り込まれているが、こうした規制強化は就労の場をさらに狭め、現に派遣で働く人や派遣会社の従業員の職が失われることにもなる。
 非正規労働の仕事も細っているが、正社員の求人となると、4人に1件もない。この現実を、もっと直視すべきだ。
 派遣などの柔軟な働き方があれば、生活の足しになって便利だという人もいる。短期の仕事なら人がほしいという企業もある。
 もちろん、安全網の整備や派遣会社の透明化は進めなければならない。同時に、企業の採用意欲を高め、就労の場を増やす方策を考えることが急務だ。

まあ現実的な意見かなぁという感じです。派遣の規制に反対し、「企業の採用意欲を高め、就労の場を増やす方策を考えることが急務だ」となると、人によっては「解雇規制を撤廃して企業の採用意欲を高める」という主張につながるわけですが、そこは「企業には、…あらゆる工夫をして雇用の維持に努めてもらいたい」ということで、解雇規制は一応維持するという前提のようです。まあ、雇用情勢の悪化を問題視しているわけですから、そうした時期に解雇規制を撤廃することが雇用失業情勢にどう影響するのかを現実的に考えたのでしょうか。
もっとも、企業が雇用維持に努力すればするほど、新規求人の立ち上がりが遅れることもみやすい理屈で、前年同月比でみれば今年10〜11月には上向くでしょうが、本格的な回復はさらにまだ先になるかもしれません。「大切なのは、確実に仕事に結びつけることである」というのはそのとおりとしても、その仕事自体が社説冒頭にあるように「何よりも仕事の場が足りない」のですから、結びつけようにもなかなか結びつかないでしょう。ということは「施策の効果を見極めつつ中身を見直す」というのも正論ですが、実際には見極めるほどの効果がすぐに見られるとは期待しないほうがよさそうです。職業訓練中の生活保障給付など、失業中の生活を支え、その期間を有意義に職業訓練などに活用するための取り組みは、短期の成果を求めずに、地道に継続する必要があるのではないかと思います。