霞ヶ関の長時間労働

霞が関国家公務員労働組合共闘会議(霞国公)が実施した中央官庁の残業時間の調査結果が報じられています。まずはasahi.comから。

2009年7月2日1時26分
 中央省庁で昨年度最も残業時間が長かったのは厚生労働省という調査結果を、霞が関国家公務員労働組合共闘会議(霞国公、22組合)が1日発表した。月平均で旧厚生省系が71.2時間、旧労働省系が66.3時間と、調査した9組合の中でワースト1、2位を占めた。仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の旗を振る厚労省の足元が問われる結果となった。
 東京・霞が関の省庁で働く組合員にアンケートし、一般職員の約8%にあたる計3573人から3月に回答を得た。全体の平均残業時間は前年度より1.4時間減って月36.3時間。若い年代ほど長く、20代が44.5時間、30代が39.8時間だった。過労死の危険ラインと言われる月80時間以上も8.9%いた。
 残業理由(複数回答)では「業務量」が64%で最も多く、続く「国会対応」が24%。また、74%が「残業代の不払いがある」と回答した。
 厚労省の残業最多はここ数年続いている。指標の多くは改善傾向にあるが、霞国公は「長時間労働の深刻さに変わりはない」として、政府に改善を申し入れる方針だ。
http://www.asahi.com/national/update/0702/TKY200907010420.html

続いて毎日jp

 中央省庁で働く公務員の労組で構成する霞が関国家公務員労組共闘会議(笠原洋一議長・1万人)は1日、約4000人が過労死の危機の中で働いているなどとする調査結果を公表した。85年から続けている調査で、今年は構成する22組合中、全農林東京や全労働本省(旧労働省)、国会職連など9組合の3572人から回答を得た。
 調査によると、平均の残業時間は月36・3時間。同会議によると、残業代の予算は月30時間なので、6・3時間分は不払いの可能性が高く、霞が関全体では年間約91億円の不払い残業があると推計する。アンケートでも約75%が「不払い残業がある」と回答した。過労死の危険性が指摘される80時間以上の残業をしている人は8・9%に上り、霞が関全体で約4000人と推計される。長時間残業のワースト3は、2年連続で全厚生本省(旧厚生省)=71・2時間▽全労働本省=66・3時間▽全経済本省=50・5時間=の順。【東海林智】
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090702ddm041040114000c.html

記事中にもあるように改善傾向にはあるようで、たとえば昨年の調査結果では月80時間以上残業をしている人は9.3%、平均残業は37.7時間、そして不払い残業の推定額は112億円とされていました。一昨年の結果では月80時間以上が10%、平均残業が39時間、不払い残業推定額は132億円とのことです。ちなみに、一昨年のワーストは旧労働で、次いで旧厚生と1位・2位は入れ替わっていますが、3位の経産省とはかなりの差があるという構造は変わっていません。まあ、この期間は常に社会保障改革が重要課題となっていたうえに社会保険庁の不祥事もあり、旧労働のほうも2007年はいわゆる「労働国会」で、このところは雇用対策に追われているわけですから、たしかにご多忙ではあったものと思います。記事は「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の旗を振る厚労省の足元が問われる結果となった」と手厳しいですが、それは結局厚労省の人員を増やせとか仕事を減らせとかいうことを言っているのに等しいということを判って書いているのでしょうかね?もちろん「生産性向上で対応」というのは正論ですし、たしかにムダもありそうではありますが、しかしこの調査を実施している労組はそうは考えていないだろうとも思うわけで…そうでもないでしょうか。
それはそれとして、きのうのエントリとの関連で、サービス残業を取り締まっている役所が自分でサービス残業していてどうするんだ、という感想も聞こえてきそうですが、それは警察の車両だって制限速度を守っていないのと同じようなもので(冗談です)。
冗談はさておき、こうした結果に対して当局がどのような見解を示しているのかが興味深いところではあります。これについては、かなり古いのですが、読売新聞のこんな記事があります。

 中央省庁で働く国家公務員(管理職を除く)の四人に三人が昨年度、給与が支払われない"サービス残業"をしていたことが、各省庁の労組の調査でわかった。民間企業のサービス残業を取り締まる厚生労働省の職員も含まれていた。霞が関の公務員からは「模範となるべき厚労省が、"不夜城"になっているのはおかしい」との声も聞かれる。
 各省庁や人事院などの労組で組織する「霞国公」が約一万五千人の組合員を対象に昨年度の残業実態を聞き、三割を超える約五千五百人から回答があった。…これに対し、厚労省は「残業と認められた分の給与は全額支払われており、サービス残業は行われていない。勉強や研究のため自主的に残っている職員もおり、全員が残業しているわけではない」と説明する。
 全労働は「勉強も仕事の延長で、実態はサービス残業。残業代が限られている反面、仕事量が多いので仕方ない面もある。だが、サービス残業している職員が、民間のサービス残業を取り締まるのもおかしな話」としている。
(2003年2月26日付東京読売新聞夕刊から)

いや、「残業と認められた分の給与は全額支払われており、サービス残業は行われていない」って、労働基準監督官が立ち入り調査にきたときに、同じ説明をして納得して帰ってくれるとはとても思えないのですが。まあ古い記事なので今さら突っ込むのもなんですが、それにしても当局が「勉強や研究のため自主的に残っている職員もおり、全員が残業しているわけではない」と説明しているところは重要なポイントでしょう。これに対して労組が「勉強も仕事の延長で、実態はサービス残業」と主張するのももっともな話です(それにしても、「残業代が限られている反面、仕事量が多いので仕方ない面もある」とはなんともものわかりがいいというかなんというか、これも労使関係の成熟の一つの姿なのかもしれませんが…)。
結局のところ、とりわけある程度専門的・裁量的なホワイトカラー業務においては、「仕事」と「仕事ではない勉強など」の境界は非常にあいまいだ、ということなのでしょう。実際、「これについては質問されるかも知れないから、あらかじめ調べておこう」というのが勉強か仕事かはなかなか判断に迷うところではないでしょうか。実際、聞かれなければ調べなくてもとりあえず業務には支障がないわけですし、聞かれた段階で調べても業務上は十分かもしれない。でも、やはり聞かれたらすぐに答えられるよう準備しておきたい…。労組としては当然「勉強も仕事の延長で、実態はサービス残業」と言いたくなるでしょう。さらにいえば、「仕事」といっても定義はいろいろなわけで、割増賃金を支払われる、という意味では「仕事」ではないけれど、でも家族に対しては「残業で遅くなった」と説明する、ということも十分ありうるでしょう。
まあ、官庁には予算制約があるので真正の(?)サービス残業になっている部分もかなりありそうだと推測されますが(推測です)、それはそれとしても、労働法においては「労働時間」という概念を実態に合わせてあらためて考え直してみる必要があるのではないでしょうか。