キャリア辞典「労働ビッグバン」(5)

「キャリアデザインマガジン」第63号のエッセイです。以下に転載します。


 「労働ビッグバン」の具体的検討にあたっている経済財政諮問会議労働市場改革専門調査会は、第7回で第一次報告をとりまとめて以降、現在まで3回開催されている。議事は「関係者からのヒヤリング」あるいは「委員からの報告」となっているが、資料や議事要旨をみると、第8回と第9回は外国人労働者問題、第10回は在宅勤務の問題をとりあげているようだ。第一次報告を受けて各論の検討に入っているということのようだが、このペースでは第一次報告に盛り込まれた各論をすべて網羅できるのはいつになることやら、と心配になってくる(もちろん、すべてを専門調査会でやるのではなく、それぞれにまた個別の検討組織を設けるという手もあるだろうが)。
 それはそれとして、まずは外国人労働者問題から着手したというのは、意図したものかどうかは別として、なかなか意味深なものがある。本家本元の「金融ビッグバン」、あるいは日本版の「金融ビッグバン」にしても、「通信ビッグバン」にしても、その最大の眼目は参入規制の緩和だった。となると、日本の労働市場における参入規制の緩和といえば、第一に外国人労働者の就労規制の緩和ということになるのではないか。これに較べたら、ハローワーク業務への市場化テストの適用も小さな話になるかもしれない。
 もちろん、外国人労働者を多数受け入れるとなると、これは経済的にも社会的にも非常に大きなインパクトがあるわけで、その議論はかなり以前から行われてはいるものの、なかなか収束しない。一応「高度人材は積極的に受け入れるが、単純労働は受け入れない」といった政府の公式見解があるような話にはなっているようなのだが、そのかたわらで徐々に単純労働での就労が拡大しつつあるのも事実だろう。いよいよこの問題を避けて通ることは難しくなってきているのかもしれない。
 いまのところ、外国人労働者問題は治安の悪化などの社会的側面が関心を集めがちなように思えるが、これが一定数を超えると、労働市場の需給や賃金水準に与える影響も無視できなくなるだろう。単純労働(と高度人材という二分法がいいのかどうかもわからないのだが)の外国人は労働条件が低いのが一般的だから、日本人と競合する分野での外国人就労が拡大すれば、当然ながら日本人の賃金水準も低下を余儀なくされる可能性が高いし、外国人に職を奪われた日本人の失業率が高まることも十分予想できる。これは一部の諸外国ではすでに現実になっていることでもある。
 もちろん、外国人労働者が日本の経済、産業の一部に組み込まれ、必要不可欠な存在となっている現実もあるわけだから、すべてを排除するということは無理だろう。ことは程度問題だが、どの程度が適当かというさじ加減と、適当を担保するための方法論は決定的に重要となるだろう。
 世間の論調をみると、「労働ビッグバン」は要するに雇用や労働条件に関する規制緩和であり、企業の利益のために労働者の生活を切り下げるものだというような批判的なものも多いようだ。しかし、仮に外国人労働者のわが国労働市場への参入規制の緩和というより根本的な「ビッグバン」(と称するからにはそれなりの規模になるだろう)が行われた場合、それは解雇や非典型雇用の規制緩和よりはるかに大きなインパクトになる可能性もあるかもしれない。慎重な検討が求められるところだろう。