企業組織の変革に関する研究会報告

 たまには読書タグ以外のエントリも書かないとということで、もう3週間前になりますが8月10日に公表された掲題の報告書をご紹介したいと思います。タイトルは「プライム市場時代の新しい企業組織の創出に向けて~生え抜き主義からダイバーシティ登用主義への変革~」となっておりますな。

「生え抜き主義」転換を 西村氏研究会、企業巡り報告書
女性・若者・外国人など多様な人材活用提言


 西村康稔経済財政・再生相の私的な研究会「企業組織の変革に関する研究会」が10日、報告書を公表した。国際的な競争に対応するために「生え抜き主義」から転換し、女性・若者・外国人など多様な人材を活用すべきだと提言した。
 研究会は冨山和彦・経営共創基盤グループ会長ら6人の委員で構成し、経団連とも意見交換した。内閣官房は近く報告書に沿った変革を働きかけるためのホームページを立ち上げ、賛同企業を公開する。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA104DP0Q1A810C2000000/

 主たる関心事は経営トップにあり、日本の経営者は主要諸外国と比較して生え抜き・男性・日本人が多く、年齢も高い一方、企業の経営トップとしての経営経験や国際経験が乏しい傾向が強く、結果的に経営者としての専門能力が不十分であり、さらに報酬が低いと指摘しています。これは取締役・執行役員や管理職においてもおおむね同様であり、生え抜き社員を年功的に登用するのではなく、若手や女性、外国人など多様で専門能力の高い人材を社外から積極的に登用すべきだと、まあそういったようなことが言いたいようです。こちらから全文がお読みになれます。さて。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/PJT/houkokusho.pdf
 報告書の大半は「Ⅰ.研究会の意見整理」にあてられており、残りが「II. 研究会の意見整理を踏まえた現時点で検討中の政府のアクション」となっていて、まあ私的な研究会ということもあり、委員が比較的自由に議論したという感じでしょうか。実際、記述を読むと「意見整理」とありますがあまり整理されている感じはせず、項目別の議事要録みたいな感じになっています。それもあって全体を通じて突っ込みどころ満載なのですが逐一やっていたら大変なことになりそうなので(笑)、特に人事管理の側面でかなり困った自己矛盾を2点確認し、最後に全体の感想を書いておきたいと思います。
 ひとつめは報告書11ページ以降からの管理職の役割について触れた部分で、冒頭こう書かれています。

~部下の指導・育成は管理職の基本業務~ ~経営者候補の早期選抜~
 経験者優遇に基づく平社員・管理職・執行役員・経営者と順番に上がっていく年功序列型の人事慣行では、昇進が全般に遅れ経営者候補者が経営のトレーニングを受け始めるのが遅くなっている。経営者候補者を早期に特定して、計画的に経営経験を積ませるべき。管理職は部下の指導・育成が基本業務。人事評価において部下の育成を重視すべき。

 さらに、「ソリューションの提案」にはこんな記載があります。もっとたくさんあれこれ書いてあるのですが関係ないところは割愛しました。

●管理職は部下の育成が主要業務。
●部下の業務管理にあたっては、マネジメントの基本のジョブディスプリクション(仕事内容の明確化)を行い、管理職が部下の成果評価・能力評価の実施をすべき。
●管理職の評価制度に人材育成を盛り込むべき。仕事の進捗管理はもちろんのこと、効果的なコーチングやメンタリング、フィードバック等を実施できているかを評価すべき。
●若いうちから経営者候補者を特定し開示すべき。
●後継者計画を作り計画的に育成すべき。困難な仕事(タフ・アサインメント)の経験も重要。
●バブルアサインメント制度(期間限定で役職を体験)を活用し、自信をつけさせる。
●管理職・経営者候補も、中途・女性・若者・外国人の多様性を持たせ、開示すべき。

 ジョブディスクリプションを「仕事内容の明確化」というのであれば、現状すでにほとんどの管理職が部下の業務分担表を作成して仕事内容を明確化しているだろうと思います。そう考えると、この「ソリューション」の大半は実はすでに実践されていて、されていないのはほぼ唯一「開示すべき」というところなのですね。開示しないものだから早期抜擢が進まない(というか、目に見える形で早期抜擢すればそれは開示したのと同じこと)というのは傾聴すべき指摘と思います。これについては後でまた書く。
 ここで指摘したいのはそこではなく、「管理職は部下の指導・育成が基本業務」というところです。そもそも管理職の基本業務は管理ではないかと思うわけですが(「ソリューション」にも「マネジメントの基本のジョブディスプリクション」と書いてあるしな)、まあそこは言わずもがなということで書かなかったのでしょうかね。
 それを除けば「管理職は部下の指導・育成が基本業務」というのにはわが国ではあまり抵抗はないだろうと思うのですが、グローバルにもそうかというと必ずしもそうではない。これは国によってもかなり事情が異なるようですが、日本企業は他国企業に比較して管理職が部下の育成へのコミットがかなり強いとは言えるのではないかと思います。管理職が部下を育成するというのは多くの場合自分の後継者を育成するに近く、それは自分の後継者を育成したら自分はもう一段上のポジションに移るということが前提になっているわけです。これを外からみればまさに年功的な昇進に見えるわけですね(実際そうだしな)。
 でまあこの報告書は年功的な昇進ではなく若手抜擢をやれと主張しているわけでしょ?となると、若手の部下を育成して、自分と同等以上に能力が高まったとしたら、その育成した若手が抜擢されて自分はポジションを追われ、「年功的に」昇進することもまかりならぬとなるなら、誰がいったい部下を育成するでしょうかねと、まあそういう話です。
 ちなみに14ページには「●年功序列のシステムの廃止を検討すべき時が来ている。名実ともに能力に適したポジションを用意すべき」という記載もあります。まあ一目瞭然で、「名実ともに能力に適したポジションを用意」するためには管理職が人材育成をしてはいかんでしょう。育成して能力が伸びて、しかしその能力に「名実ともに適したポジション」が存在するという保証はないわけであってな…?いやもちろん能力以下のポジションも能力に適したポジションだという考え方はありうる(というかジョブ型ではそれが普通)わけですが、だったら管理職が人材育成するのが基本業務ってのは意味ないよね。
 ということで、若手の抜擢とかジョブ型とかいうのをやりたいのであれば人材育成が管理職の基本業務というのは無理があると思います。これが第一の矛盾点。
 ふたつめはぐっと技術的な話になりますが、賃金について15ページにこんな記述があります。

●年功賃金制主流から職務給制主流へのリバランス。
●トライアルをしなければ失敗することもない。失敗しないことを評価するとトライアルしないことが合理的行動になる。トライアルしないと評価されない人事評価制度とし、トライアルした数を人事評価で加味すべき。
●昇格には業績よりもリーダーシップ(行動)の評価を重要視すべき。
●能力の適切な評価には、whatではなくhowを評価できる適切な目標設定が重要。
Pay for Performanceの人事制度を設計するためには、マネジャーの役割が重要で、ミッションアサインを明確に行うべき。

 「年功賃金制主流から職務給制主流へのリバランス」と言って、その何行かあとには「Pay for Performanceの人事制度」というわけですが、いやこれどちらをやりたいのかね
 まあ「主流へのリバランス」だからいいんですという話かもしれませんが、しかしPay for Performanceの典型的なものは出来高払ですからねえ。一方で純粋な職務給というのは職務が同じであれば出来高が異なっても賃金は同じなのであって、なんとなく数行書いたら前に書いたことを忘れましたという感がしなくもない。
 しかも「昇格には業績ではなく行動」というのもPay for Performanceとは逆行しているし(行動より業績のほうがperformanceには近いよね?)、「能力の適切な評価には、whatではなくhowを評価できる適切な目標設定」というのも、より職務やperformanceに近しいwhatではなく、プロセスに近いhowを、と言っているわけで(トライアルはwhatなのかHowなのか…)、いやこれこの数行だけでもまことに混沌としておりますな。これが矛盾の第2。
 ということで全体を通じての感想ですが、まあ言いたいことをはっきり言えよという感じでしょうかねえ。さっき「後で書く」といったこととも関係するわけですが、この人たちは要するに諸外国のように、CEOとかCOOとかほかのCなんとかOとか、その下のゼネラルマネージャーとかについては年齢や性別や国籍に関係なく多様な人が高度な専門能力を評価されて就任し結果に応じて高額報酬を得たり退任させられたりする世界にしたい、そのためには優秀者を若年期から抜擢して高度な専門人材を育成すべきだと、まあそういうことが言いたいわけでしょう。実際問題として諸外国ではむしろそちらが当たり前で、珍しいことでもなんでもない。でまあ日本企業でもそれに近いことは実は(社内的には)行われているわけですが、それを明確には開示しないものだから結果的に昇進が遅くなってしまうというのもそのとおりだろうと思います。
 つまり最重要のポイントはそのためには欧米のようにエリートとノンエリートを早期に区分し固定すべきだということであり、実際すでにそういう議論は随所であって、10年くらい勤続したのちに区分し開示するのがよいという意見もあれば、やるなら入口からやるしかないかなあという意見もあるわけです(これについてはこれまでも繰り返し書いています)。この報告書もそこまで明確にして踏み込んでもらえれば、では(この報告書でも言及がありますが)これまで企業が分担していた社会福祉的な部分をどうするかとかいった話に発展していく可能性もあったかもしれませんが、まあそこから逃げて管理職の基本業務は部下の育成とかベテランのリスキルとかなんとかこねくり回していてもダメだよねと、まあそんなことを思いました。たいへんですね。

本田茂樹『待ったなし!BCP策定と見直しの実務必携』

 (一社)経団連事業サービスの輪島忍さんから、経団連出版の最新刊、本田茂樹『待ったなし!BCP[事業継続計画]策定と見直しの実務必携ー水害、地震感染症から経営資源を守る』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 昨今のコロナ禍を受けて、感染症に関する記載も強化したBCPの入門書という趣の本です。BCPの見直しを進めている企業も多いと思われる中、基本の再確認に有益な本といえそうです。

日本労働研究雑誌8月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』8月号(通巻733号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「日本におけるインターンシップの展開と現状」で、期間も内容もきわめて多様なわが国のインターンシップについてさまざまな側面から調査・分析されています。すでに初見・坂爪・梅崎論文では昨年以降のコロナ禍下におけるオンライン形式のインターンシップについても調査・分析されているのが興味深いところです。今年は昨年の経験を生かしてさらに進歩している可能性もあり、コロナ禍収束以降も遠隔インターンシップの手法などとして存続していくのかどうかなど興味深いところです。

ビジネスガイド9月号

 名刺を探すために出社しました。いや昨今では名刺管理の便利なアプリというのもいろいろあって何とかしたいとは常々思っているのですが、情弱以前の問題として1,000枚収納の名刺ケースが3本ありさらにそこから大量にあふれ出しているという物量の問題が大きすぎてどうにもならん。なんとかならんかな。
 ということで到着していたものの御礼を書きたいと思います。いつも遅くて申し訳ありません。

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』9月号(通巻907号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「履歴書新様式と採用手続への影響」「能力等を活かせない業務への配転命令と有効性判断」の2つです。前者はこの4月に厚労省から性別欄が自由記述になるなどした新しい履歴書の様式例が示されたことを受けて、採用差別の問題を起こさない採用実務について解説されています。後者はこの1月の安藤運輸事件名古屋高裁判決が契機となっているようです。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は派遣労働への規制を取り上げ、日本の正規雇用の特殊な働き方を前提とした「常用代替防止」の発想が派遣規制の多くの問題点につながっていると指摘しておられます。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は今回は「フリーランス」を取り上げ、前半はフリーランスの労働者性に関する解説、後半はそれを受けた今般の新ガイドラインのポイントとなっています。
 

産政研フォーラム夏号

 (公財)中部産業・労働政策研究会様から、『産政研フォーラム』夏号(通巻130号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。
www.sanseiken.or.jp
 今号の特集は「ウィズコロナ時代の新しい働き方」で、鶴光太郎先生、玄田有史先生が論文を寄せられています。鶴先生はテレワークを取り上げられ、現状と今後の課題・展望について論じておられます。途中で「テレワークを推進するためにはジョブ型雇用にしなければならないとか、…成果主義にしなければならない(とかいう)論調が多い」が「まったく意味のない議論」であり、「テクノロジーが…問題を解決することで「日本型テレワーク」は十分可能である」と喝破しておられるのはまことに胸のすく思いです。
 玄田先生は労働市場の動向、特にコロナ禍で労働市場から退出した「働き止め」に着目して分析しておられます。その上で、不安やリスクと対峙するためには従来から労働経済学が指摘してきた「異常と変化への対応」が引き続き重要であり、その上でのキーワードとして「ブリコラージュ」「マドリングスルー」などを紹介されています。「ブリコラージュ」は『構造と力』やらなんやらとともに学部時代を過ごした世代には懐かしいですね。
 本誌の呼び物、大竹文雄先生のロングラン連載「社会を見る眼」では現状維持バイアスが取り上げられ、「悩んだ時には変化を選んだ方が幸福度が高い」と呼び掛けておられます。
 

経団連『2021年版日本の労働経済事情』

 (一社)経団連事業サービスの輪島忍さんから、経団連編『2021年版日本の労働経済事情』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。一昨年の臙脂、昨年の空色に続いて、今年は鶯色の表紙です。2018年版の色とは微妙に違うのかな?

 例年刊行されている人事部署の初任者向けテキストのアップデート版で、副業・兼業やテレワーク等をめぐる最新の動向が適切に反映されています。人事部署の職場に一冊常備して常時参照することを推奨したいと思います。
 

日本労働研究雑誌7月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』7月号(通巻732号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「ライフキャリアとサードプレイス」で、「家庭でも職場でもない」サードプレイスがキャリアの観点からさまざまに論じられています。職業紹介の場としての伝統的な同郷者ネットワークとか、越境学習の場としてのサードプレイスとか、興味深い内容が揃っていて、授業でも活用できるかもしれません。しっかり勉強させていただきたいと思います。